第68回 未成年者の喫煙対策が急務【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第68回 未成年者の喫煙対策が急務【北京駐在員事務所から】

先週末の5月31日(土)は、世界保健機関(WHO)が制定した「世界禁煙デー」でした。
世界各地で、禁煙を呼びかけるイベント等が開催されました。

禁煙の推進を重要な活動テーマとしているWHOは、このほど、各国政府と共同で、世界188の国と地域で、若年層(10代以下)を対象とした喫煙経験あるいは習慣についての実態調査を行いました。
中国では、WHOと政府、ならびに米国疾病予防管理センターが協力して、中高生15.5万人を対象に調査を行いました。
中国には、日本の未成年者喫煙禁止法のような、年齢により喫煙を制限する法令はありませんが、16歳未満の者へのたばこの販売は違法とされています。

調査の結果、中国では13歳から15歳の約940万人が喫煙経験を有し、その3分の1に当たる300万人強が喫煙者になっていると推計されました。
各年齢層に占める喫煙者の割合は、

男子が

13歳:7.0%

14歳:11.5%

15歳:15.1%

また女子が

13歳:1.5%

14歳:2.6%

15歳:2.6%

となっています。
比較が難しいですが、日本では10年前の2004年に、厚生労働省が未成年者の喫煙経験等について調査を行っており、中学三年生(15歳)の男子7.3%、女子4.8%が、月1回以上の喫煙経験を有していたそうです。
中国では、男子の喫煙率は日本よりも高く、一方女子は日本よりも低いという結果になりました。

また、今回の調査では、対象者の8割が、13歳までに喫煙を経験していることが判明しました。
日本では、13歳時点での喫煙経験者の割合が、男女ともに1割程度ですので、極めて高い値です。やはり喫煙行為そのものに年齢制限が課せられていないことが大きいようです。
都市部よりも農村部の子供が、早くから喫煙を経験する傾向にあり、特に中部あるいは南部のたばこ生産地である雲南省、河南省、湖南省等で顕著だそうです。

政府の国家衛生・計画生育委員会(日本の厚生労働省に相当)の担当者は、近年、たばこの広告宣伝がネット経由にシフトし、若年層への露出が増加していることが、喫煙経験あるいは習慣に影響していると指摘し、早急に全てのたばこ広告を禁止する必要があると述べています。

また、別の問題として、既に法律で禁止されているにもかかわらず、若年層でも簡単にたばこを購入できる実情があります。
調査では、喫煙経験者の65%が、学校の近辺でたばこを購入することができると回答しており、また8割が、年齢を理由にたばこの購入を拒絶されたことが無いとしています。
日本では、自動販売機へのICカード「taspo」の導入など対策が取られていますが、中国ではまだまだのようです。

広告宣伝の禁止、制限は一定の効果がありそうですが、加えてWHOは、中国を含む所得水準が中位あるいは低位にある国では、たばこの販売価格を引き上げることが、若年層の購入意欲を低下させるために有効としています。

加えて、受動喫煙の問題も深刻で、調査では回答者の過半が、学校での教職員の喫煙により、受動喫煙にさらされており、11%は「教職員が学校で毎日喫煙している」と回答していました。
中国では、一応パブリックスペースは禁煙(喫煙は指定の喫煙所のみで可)で、レストラン等は禁煙あるいは分煙とされているのですが、なかなか徹底されておらず、街の食堂などでは、「禁煙」と表示されていても従業員に頼めば灰皿が出てきます。
さらに、屋外では歩きたばこやバス停での喫煙等何でもありで、このあたりは日本の「昭和の風景」を思わせます。
専門家は、医師や学校の教師などが主導し、禁煙の推進や法規制の強化に向けた運動を起こすべきと指摘しています。

北京など都市部では、大気汚染が深刻ですが、健康への影響という点では喫煙の方が遥かに大きな問題と言われています。特に若いうちからの喫煙習慣は、長い年月を経てからの重大な疾病につながりかねず、早急な対策が求められます。
日本人から見ると、中国の「喫煙者天国」ぶりは何か懐かしさを感じさせるものですが、とてもそのような悠長なことは言っていられないと、認識させられました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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