第29回 人手不足のテーマを読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第29回 人手不足のテーマを読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。梅雨も本番となってきて各地で豪雨のニュースが出始めています。かつて梅雨と言えば「シトシト雨」の印象があったのですが、今や少し変わってきたようです。みなさま、くれぐれも災害などにはお気をつけください。なお、ついにサッカーのFIFAワールドカップが始まりました。現在は業務よりも試合観戦を優先しております(笑)。ちょっと相場感覚がズレてしまうかもしれませんが、何卒、ご容赦ください(笑)。

さて、今回取り上げるテーマは「人手不足」です。アベノミクスの進展以来、至るところで人手不足が顕在化してきました。飲食店では店員の確保が容易ではなくなり、特に建設現場では東日本大震災後の復旧・復興、さらには東京オリンピック招致なども加わり、人手不足は極めて深刻な状況にさえなってきています。実際、2014年に入って以降、有効求人倍率は1.1弱と実に2006年以来の高い水準にあり、リーマンショック前の「ミニバブル期」「いざなみ景気」の時の肩を並べています。これはバブル景気後の最高値になります(ちなみに、バブル景気時のピークは1.4)。新規求人倍率に至っては1.6超と、リーマンショック前の水準を抜き、平成バブル最終局面の1992年以来という水準にあります。この数字を見れば、雇用情勢がかなりタイトになっていることがおわかりいただけるでしょう。さらに、日本の少子高齢化、人口漸減基調を考えれば、この人手不足は構造的に継続する可能性もあります。この状況を緩和するためにも、配偶者控除の廃止による女性の活用、外国人労働者の受け入れ、などが現在検討されているところです。これらに関して議論は様々ありますが、人手不足が構造的な問題であるとの認識が広がっていることは明らかでしょう。

ただし、例によってこのコラムでは、一連の人手不足銘柄を単純に列挙することはしません。人手不足は確かに喫緊の問題ですが、もう少し足元の状況を考えてみたいと思います。そもそも人手不足は、景気拡大時にはいつも起こり得る事象です。それまでの景気停滞期に企業は従業員数を抑制するため、売上が増え始めると人手が不足するのは当然なのです。そして、人員確保のためにコストは急増するのですが、売上拡大(回復)が急であればそれをカバーすることができます。まさに景気拡大の「増収増益」のフェーズです。しかし、売上拡大ピッチが鈍化してくると、コスト上昇分を吸収できなくなってしまい、「増収減益」へと移行します。その後は、減益局面下、企業は強気の計画を建て難くなり、徐々に景気が後退していくというのが一般的な流れです。人口減などの構造的な問題はあるものの、今は景気循環的な要因が人手不足問題を余計に後押ししていることを忘れてはいけません。さらに重要なのは、今期の企業業績見通しを見る限り、増益率は早くも鈍化傾向にあり、「増収減益」フェーズへの移行がそれほど遠くない局面となってきているかもしれない、ということです。

現実に人手不足が収束するには、需要が減少するか、人手が増えるか、(技術革新などで)労働生産性が飛躍的に改善するか、のいずれかしかありません。そして、如何に人口減少傾向とはいえ、長期間ずっと人手不足状態が慢性的に継続するというのも考えられません。上記の可能性のうち、何らかが一旦は必ず実現するはずだからです(このまま人手不足が続けば売価は急騰することとなり、それは景気を冷やすことになりかねません)。現在は人手不足がまるで永遠に続くかのような論調も巷では散見されますが、仮にそれが構造問題だとしても、全く緩和されることなく長期間続くと考えることは現実的ではないと考えます。つまり、人手不足関連銘柄のエントリーにはこの点を留意したタイミングが非常に重要となるのです。同時に、コスト上昇を吸収できるだけの売上増を確保できるのかどうか、できないのであれば、「増収減益」フェーズへの移行がいつになるのかというアベノミクス景気の先行きを占ううえでも、このテーマは一つの大きな指標になると位置づけられるでしょう。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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