マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
6月9日月曜、スペイン国債利回りが2.5791%まで低下しました。この日の米国債利回りが2.615%、米国債金利よりスペイン国債利回りの方が安いという「ねじれ現象」が起こりました。(国債格付けが低いスペインの方が利回りが高いというのが自然です)
スペインの10年債利回りはわずか2年前の2012年6月には危険水準とされる7%を突破し、99年のユーロ発足以降の最高水準を更新していました。格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、スペイン国債の格付けを「A3」から3段階下の「Baa3」に引き下げたことが引き金でしたが、利回り7%という数字は、いわば危険水域への境界線であり、この水準を超えると自力での資金調達が困難になりデフォルトの危険性が高まるとされる水準です。2009年10月のギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露から始まった欧州ソブリン危機は、2012年にかけてイタリア、スペインへと危機が連鎖し「ユーロ崩壊」とまで騒がれましたが、同7月、ECBのドラギ総裁が「Believe me(危機救済のためには何でもやる、私を信じろ)」と発言したことで危機は収束し、国債利回りの上昇にも歯止めがかかり、ユーロ安トレンドにも終止符が打たれました。
それからわずか2年、欧州は止まらぬユーロ高に苦しみ、ECBはとうとう今年14年6月のECB理事会で「マイナス金利政策」導入に踏み切ります。2年前デフォルトの危機にあったスペイン国債利回りが、米国債利回りを下回るところまで低下したのは、このマイナス金利導入がきっかけであったと指摘されています。
このところの相場は「イールド・ハント(高利回り狩り)」と呼ばれています。高い利回りの投資先を探しては資金が流れ込んでいるのです。これまでリスクが高いとして高利回りであった南欧債などにも資金が流入し、結果、利回りが低下しているのです。マイナス金利とは簡単に説明すると、欧州の市中銀行がECB(中央銀行)に資金を超過して預けている分については、金利を付けず、逆に金利を支払ってもらいますよ、という政策です。マイナスが金利導入されることで、銀行は中央銀行に余剰にお金を預けていると目減りしてしまうために、余剰資金を引き出すだろう、ということです。これが融資など活きた使われ方をすれば経済の活性化に繋がるとも考えられるのですが、現実にはそういう使われ方をする前に、まずはECBから引き出された資金が「とりあえず債券市場」にシフトしたものと思われます。そこで選ばれた資金の移動先がスペイン、イタリアなどの比較的高利回りの債券であったために、このマイナス金利導入が米国債よりスペイン債利回りの方が低いという歪みを生んでしまっていると指摘されています。
この資金移動が一時的な避難であれば、この歪みはいずれ解消されていくと思いますが、余剰資金がいつまでも債券市場にとどまり続ければ欧州各国の国債利回りは低いままとなり、それでなくても米国債利回りも低い状況が続く中で、日米欧と先進国の金利は低く抑えられ続けるという「デフレ状況」が長期化してしまう懸念も。景気が良ければ、資金は国債から他のリスク資産に向かい、結果金利が上昇し、インフレに向かうのが教科書的な理想の景気回復のシナリオですが、米国、日本、欧州と緩和政策を取っているのにインフレにならないというのは、なんだかとても不思議な話ですね。
余剰資金が高利回りの投資先を探して動いているのは、債券市場だけではありません。為替市場では、豪ドルやNZドルといった高金利通貨が堅調です。先週、イギリスの利上げは思ったよりも早い可能性があるとBOEのカーニー総裁が発言したことで早期利上げ観測が高まったポンドもこの先さらに注目が高まるでしょう。FXトレードでは短期的に、ユーロ売り、ドル売り、円売りの高金利通貨買いというトレードがテーマとなりそう。ECB理事会後から「ユーロキャリー」という言葉が聞かれ始めました。キャリーとはその通貨を借りて他のところに投資するという意味です。低金利通貨をかり、高金利通貨に投資するということが今、流行っているということです。
当面は各国の10年債利回りに市場関係者の注目が続くでしょう。金余りの金融市場、株式市場にも十分資金は入っているため、株式市場も世界的に堅調です。インフレでもなく、デフレでもなく景気後退でもない、適度な経済成長を続ける程よい経済状態のことをゴルディロックス経済と呼びますが、今がまさにこの状態だと指摘する声も。ただし、このゴルディロックスは長く続かないとも言われています。何がきっかけで動き出すかは解りませんが、米欧国債の利回りの急上昇、株式市場の急落が起こった場合、キャリーされていた通貨は巻き戻されて急騰する可能性があります。その場合は豪ドルやNZドルは急落します。目先は「イールド・ハント」トレードに乗って高金利通貨を買うという流れが続きそうですが、ゴルディロックス状態は長続きしない、ということを肝に銘じてリスク管理しておきたい相場です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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