第70回 北京で自家用車を持つのは大変【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第70回 北京で自家用車を持つのは大変【北京駐在員事務所から】

北京の深刻な大気汚染と交通渋滞については、本コラムでも何度かご報告しております。
中国では、日本の高度成長期からバブル期のように、自家用車の所有がステータスとなっており、自家用車の保有台数が増加しています。都市部ではこれが交通渋滞を激化させ、また大気汚染の一因になっています。

北京などの大都市では、これらの問題への対応策として、新たな自動車登録の抑制を図っています。
具体的には、年間の自動車登録台数に枠を設け、上海では登録資格(ナンバープレート)を入札(オークション)により割り当てています。また北京では、毎月2回、各回につき2万台分のナンバープレートを、申込者に抽選で配分しています。北京では2011年に抽選制が導入され、申込者が年々増加しているそうです。

北京の抽選には、毎回200万人もの応募があり、倍率は100倍に達しています。何年待っても当選しない人がいる一方、当選しても有効期間(6ヶ月間)内に自動車の購入と登録ができず、権利が失効してしまう当選者もいるそうです。
ちなみに、日本では考えられないことですが、北京では平日の昼間に市中心部を走行できるのは北京ナンバーの車のみとなっています。ですので、貴重な北京のナンバープレートを巡る争奪戦が起きるわけです。

そこで、友人同士などでナンバープレートの貸借を行うこと(ナンバープレートの当選者の名義を借りて自動車を登録すること)が増えているそうです。
北京在住の30歳の写真家は、年内に夫人の出産予定があり、自家用車の所有を希望していたものの、北京市の戸籍が無く、ナンバープレートの抽選への申込資格がありません。
そこで、「幸運にも抽選に当たったものの、当面自家用車を購入する予定のない友人」に頼み、友人が車を必要とする場合にはいつでも貸与するとの条件で、自らが自動車を購入し、友人の名義で登録しました。自身が資金を、また友人がナンバープレートを提供する一種のカーシェアリングだと述べています。

このナンバープレートの貸借、一見すると"Win-Win"の良い方法にも思えますが、法律の専門家は、法的リスクの存在を指摘しています。
典型的には、事故の発生時に、運転者に加え、持主(名義人)も連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。事故発生時の責任の所在について、当事者(車の購入者と登録時の名義人)の間で、予め合意を取り交わすこともよく行われるそうですが、弁護士は、そのような合意は、第三者(事故の被害者)より損害賠償請求訴訟を受けた場合には効力を有しない(対抗できない)と述べ、名義人が負うリスクについて警鐘を鳴らしています。

さらに、北京市政府は、ナンバープレートの交付について規制を一段と強化しています。
抽選により割り当てられたナンバープレートは、当選者本人しか使用することができず、権利を販売、貸与あるいはリースした者はナンバープレートを没収され、かつその後3年間、抽選への申込資格を失うそうです。
それでも、自家用車登録の困難さが周知となった北京では、自家用車の購入予定が無い人までもが、「当たれば儲けもの」とばかりに抽選に申し込んでいます。「家族の誰かが当たれば」ということで、夫婦に両親、さらに親族が総出で申込むそうですが、申込資格(条件)に「自動車運転免許を持つこと」があるため、最近では50代あるいは60代の、自らは自動車を運転する予定が無い多くの人々が自動車学校(教習所)に通い、自家用車を保有したい子供のために免許を取得しています。
教習所にとってはいわば「特需」ですが、何とも不自然な感じがいたします。
中国のモータリゼーションの状況は、ちょうど日本の高度成長期からバブル期に重なります。
テレビのCMでも、国内外の様々なブランドが、有名タレントやスポーツ選手を起用し、競うように宣伝をしています。日中間に様々な問題はありますが、日系メーカー各社が中国市場に力を入れるのは当然とも思えます。
北京では交通渋滞、大気汚染に加え、中心部での駐車場の不足も大きな問題になっているそうです。公共交通機関が十分整備されていないこともあり、自家用車への需要はしばらく衰えることはなさそうですが、付随する様々な問題について、何とか良い方向での解決が図られるよう、願いたいと思います。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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