第71回　シルクロードに延びる新幹線【北京駐在員事務所から】

西部新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチで、5月22日（木）に爆弾テロ事件が発生し、31人が死亡したとのニュースをご記憶の方もおいでと思います。
同自治区については、日本の外務省も「十分注意してください」との渡航情報（危険情報）を発出しており、衝突の激化やテロの発生が懸念される状況が続いています。

そのウルムチに向け、隣接する甘粛省の省都蘭州市から延びる新幹線の建設が進んでおり、年内の開通に向け、試運転や客室乗務員の訓練が行われています。
シルクロードの「天山北路」に重なるルートで、総延長は1,776㎞です。日本の新幹線と比べると新青森－久留米（福岡県）間と同じになります。
2009年に着工し、5年の歳月と1,435億元（約2兆3,500億円）の資金が投じられました。営業運転の速度は時速250㎞となる予定です。

ゴビ砂漠を横断するルートは気候が厳しく、沿線は夏の最高気温が50℃、冬の最低気温がマイナス40℃にも達します。また風も強く、最高風速は秒速60mにもなるため、総延長の26％に当たる462㎞に防風壁が設置されます。過酷な条件下での運用となりますので、車輌やレールの敷設には最新の技術が駆使され、またテストも入念に行われているそうです。

中国では、航空機に比べ列車の運賃が割安なため、庶民の帰省や旅行の足は主に鉄道になります。新疆ウイグル自治区の観光局の担当者は、新幹線の開通により、観光客が増加し、地域の雇用も増えると期待を口にしていました。
また、新幹線の開通により、既存の鉄道路線を貨物輸送中心の運用に切り替えられる点も大きなメリットです。既にウルムチから先、ヨーロッパまで貨物列車が運行されており、まさに「現代のシルクルート」になっています。主な品目は機械設備等の工業製品だそうですが、今後ますます物流が活発になるものと思われます。
少数民族に対する懐柔策という意味合いも含め、政府は新疆ウイグル自治区に巨額の資金を投じ、インフラ整備や産業振興を進めています。同自治区を含め、新幹線の建設も全国で進められていますが、その裏には政府の様々な意図、思惑が込められているという訳です。

私が一昨年の9月に北京に赴任してから2年足らずの間にも、東部遼寧省の大連から東北部のハルビンへ、あるいは北京から南部の広州へと、新幹線の新路線開通が続いています。
開業初日のテレビニュースは、一番列車への乗客のインタビューや、新幹線を歓迎する沿線住民の様子を報じるのですが、皆一様に嬉しそうな表情で、日本の高度成長期に重なる光景です。
中国の活力が感じられ、ちょっと羨ましい思いもいたしました。

新幹線を含むインフラ整備向けの巨額の支出は、今後国家財政への負担となることが懸念されますが、一方これが中国経済の成長の一翼を担っていることも事実で、政府はジレンマに陥っています。
日本でも、今後北海道新幹線や九州新幹線長崎ルート、さらには中央リニア新幹線の開業が予定されていますが、総人口が減少する中、単純に「新幹線の開通で経済発展」とは行かなくなっています。新幹線開通のメリット、デメリットについては、近年開通した整備新幹線の沿線の皆様がいろいろと実感されていることでしょう。
日本、中国ともに、新幹線が有用な社会インフラとして活用され、往来の活発化により、観光などを含めた経済活動の活性化に寄与するよう、期待したく思います。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト