第116回 相場への影響力が低下した雇用統計 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第116回 相場への影響力が低下した雇用統計 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

7月に入りました。1月2日今年最初の取引日に105.44円という高値を付けドル/円相場は急降下、2月4日に100.75円の安値を付ける下落相場を演じましたが、トレンドがあったのはわずかこの1か月だけ。その後はすっかり横ばいのレンジ相場です。この間にも、ウクライナ、イラクなどの地政学リスクやECBがマイナス金利を導入するなどの金融政策に踏み切るなど大きな出来事はあったのですが、ドル/円相場がこのレンジを破ることはありませんでした。雇用統計も然り。マーケットを動かす要因として注目が高い米国の雇用統計ですが、結局この4か月強の期間は雇用統計も相場のトレンドを後押しするような材料とはなっていないということですね。

為替市場のみならず、あらゆる金融市場が注目するアメリカの雇用統計。アメリカではFRB(アメリカ連邦制度準備理事会)が、金融政策を司っていますが、世界の多くの中央銀行が「物価の安定」を金融政策の使命に掲げているところ、FRBは「雇用の最大化」も金融政策の目的のひとつとしており、2つの使命があるのが特徴です。

FRBは昨年12月に月額850ドルのQE3(量的緩和政策)を100億ドル縮小することを表明、テーパリングを開始しています。それも雇用環境が整ってきたことがひとつの要因。国の金融政策はそうコロコロ変わるものではありません。リーマンショック以降緩和策も5年続きました。アメリカが緩和策縮小の一歩を踏み出したことは、今後数年のドルの先行きを大きく占う大きな材料となります。緩和縮小は市場に流通するドルの量が減るという思惑からドル高となるだろう、このような思惑が昨年末から年始にかけての市場に蔓延していました。

しかしドルは一向に上昇しません。米国の低金利が継続しているからです。米国がいよいよ緩和縮小に踏み切ったことから、市場は「次はいつ金利が上がるか」に注目していました。ところが、米国10年債利回りは6月4日、2.4%まで下落しています。2014年に入って雇用統計の数字は市場の予想を裏切ることなく好調な数字が出ています。であれば景気回復からの金利の上昇ということでドル高となると思われていたのですが、10年債金利が低迷していることでドルが上がらないという不思議な現象に陥っているのです。国債金利が上がらない背景には、FRBが低金利政策を長期化させる主旨のコメントを繰り返しアナウンスしていることも一因ですが、中国などの新興国の外貨準備マネーが米国債を購入しているという背景も。金余りのマーケット、マネーは行き場を求めて動いていますが、株式市場だけでなく米国債券市場にも流入しており、これがドル/円相場の上値を抑えてしまっています。このアジア中銀の外貨準備の米国債買いなどの動きは雇用統計など全く関係ありません。単純に増大したドル資産をリバランスしているだけです。

また、FRBはテーパリングが開始されてからは雇用統計でどんな数字が出ようとも、粛々と同じペースで緩和縮小を継続しています。市場はすっかり「FRBは毎回同額で縮小を継続するだろう」ことを織り込んでしまいました。つまり、年内にもQE3政策が終了するであろうことをマーケットは確信しており、雇用統計の数字の変動ではFRBが緩和縮小政策を変更、微調整するかもしれないという懸念が全くなくなってしまったのです。

雇用統計が、現在の米国の金融政策を変更させる可能性が著しく低下したことが、雇用統計による為替市場への影響が低下した要因でしょう。今週は7月4日金曜日が独立記念日の祝日となるため、雇用統計は前日7月3日木曜日に発表されます。この日はECB理事会と重なるため、レンジブレイクの可能性を示唆する向きもありますが、現在の環境においては欧州の金融政策も、雇用統計もマーケットの波乱要因となる可能性は低く、相場が本格的に動き出すのはテーパリングが終了し、次なる金利の引き上げ時期が焦点となる頃、今年の秋くらいになりそうです。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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