第73回 経済発展で美術工芸品への需要が高まる【北京駐在員事務所から】

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第73回 経済発展で美術工芸品への需要が高まる【北京駐在員事務所から】

先日、NHKテレビの特集番組で、台湾台北市の故宮博物院の収蔵品が紹介されていましたが、長い歴史を持つ中国では、膨大な数の美術工芸品(書画骨董など)が製作され、歴代皇帝の所蔵品を初め、高い文化的価値を有する品々が多数存在しています。

最も価値の高いものは、多くの場合、各地の美術館、博物館等に所蔵され、学術研究や展示に供されていますが、個人が購入し所蔵しているものも多く、流通市場での取引も活発です。
そして、近年中国の美術品市場では、事業に成功し財を成すなどした二十代、三十代の人々が参加者として存在感を高めており、さらには、油絵等中国国外の書画骨董を含めた世界の美術品市場においても影響力を強めているそうです。
昨年2013年の中国の美術品市場の規模(取引金額)は、米国に次ぐ世界第二位と推計されています。2012年には経済成長の減速で前年比30%減となったものの、昨年は2%増とわずかながら回復し、取引額は115億ユーロ(約1.6兆円)を記録しました。

品目別では、書画が56%と過半を占め、次いで磁器が24%、油絵等近現代の作品が10%となっています。
市場関係者は、若い人々が市場に参加することで、今後は現代作品などへの需要が高まると期待しています。
成長する中国市場を取り込もうということで、クリスティーズやサザビースなどの世界的なオークション(競売)業者が中国に拠点を構え、コレクターへの営業や若手芸術家の発掘に努めているそうです。
クリスティーズは、昨年4月に中国政府から独資(100%外資)での営業の許可を取得しました。
またサザビースも、2012年に中国国有企業との合弁の形で市場参入を果たしています。
中国国内の業者も、大手の「保利(Poly)」が昨年2013年に前年比29%増の79億人民元(約1,300億円)を売り上げるなど事業規模を拡大しており、競争が激化しています。
今のところは、これまでの取扱実績、コレクターの嗜好についての理解、市場慣行や公的な規制に対する習熟等の点で、国内の業者が優勢となっていますが、海外勢の台頭で市場がさらに活性化することへの期待の声も聞かれます。

各国における美術品への需要や取引規模は、経済の規模、成長あるいは成熟の度合いを反映したものになります。
かつては、世界の美術品は英国を中心とした欧州に集中し、その後は経済力を背景に米国が市場を支配する存在になりました。
今は、まだ米国と中国の差は大きいようですが、いずれは美術品市場の分野でも、中国が世界一に躍り出る日が来ることでしょう。

日本では、バブル最盛期の1987年に、当時の安田火災海上保険(株)(現(株)損害保険ジャパン)がゴッホの名作「ひまわり」を約58億円で購入し話題となりましたが、最近では日本勢がそのようなニュースに名を連ねることがすっかりなくなってしまったように思います。
美術品市場でも、今後は中国、あるいは文化的背景が異なるものの、オイルマネーを有する中東諸国が大きな存在となるのでしょう。
サッカーワールドカップは大詰めを迎えていますが、スポーツの市場も、今後は中国と中東諸国が重要と見られています。「2022年ワールドカップカタール大会」を見れば明らかですね。中国も2026年のワールドカップ開催を狙っていると言われています。
日本は「蚊帳の外」という感じもあり、いささか残念ですが、美術品市場の動向にも各国の勃興あるいは栄枯盛衰が垣間見られるように思われます。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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