第118回 米金利が上がらない!イエレン・ダッシュボードって何? 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第118回 米金利が上がらない!イエレン・ダッシュボードって何? 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

自動車の運転席に様々なメーターが並ぶダッシュボード。その自動車の運転席になぞらえて、FRBのイエレン議長が注目する雇用関連指標のなかで最も重要とされる9つの指標がイエレン・ダッシュボードと呼ばれています。

これが政策金利引き上げ開始時期決定の判断材料となる重要な指標とされているのですが、昨今の雇用統計でNFP非農業部門雇用者数が回復してきても、失業率が改善しても他の指標をみると、まだまだ雇用情況が良いとは言えないのです。

1)非農業部門雇用者数増減数

リセッション前(リセッションとは、2四半期連続でGDPがマイナスとなること)の、リーマンショック前の世界好景気に沸いた2004-2007年の平均が+16.2万人でしたので、これだけを取ってみれば十分に雇用は回復したように見えます。6月は28.8万人増、3ヵ月平均は27.2万人増と2012年3月以来、12ヵ月平均は20.8万人増と2006年5月以来の高水準となりました。


2)失業率 

バーナンキ氏前FRB議長時代に金利引き上げの目安とされていたフォワードガイダンスでは6.5%以下になることが目標とされていましたので、この数字と比べれば十分にクリアしているように見えますが、リセッション前平均が5%でしたので、6月最新の雇用統計の6.1%はまだまだいいとは言えません。


3)労働参加率

これが良くない。6月は62.8%、3ヵ月連続で1975年以来の低水準。リセッション前平均は66.1%でした。要するに、仕事を探すことを諦めた、労働市場から退出してしまった人が増えているということです。


4)長期失業者の割合

半年以上失業状態が継続している割合を指しますが、この数字もまだまだです。リセッション前の平均は19.1%でしたが、6月の雇用統計では32.8%と、まだまだ長期失業者が多いことがわかります。


5)広義の失業率(U-6)

フルタイム労働を希望していても仕事がないためにパートタイム労働を余儀なくされているという人口を含んだ失業率のことです。リセッション前平均が8.8%なのに対して、12.1%もあります。現在雇用統計で注目される失業率は6.1%ですが、U-6と呼ばれる広義での失業率はその倍もあり、まだまだ雇用情勢がいいとはいえません。

ここまでの5つの項目は、毎月発表される「雇用統計」で確認することができます。そして以下の4つの項目は「雇用動態調査(JOLTS)」にて確認できる項目です。最新の5月分が先週8日火曜日に発表されました。


6)求人率

雇用人数と求人数の合計に占める求人数の割合を指します。最新の数字である5月は3.5%でした。件数ベースでは、求人数が前月比3.8%増となり、リセッション前の2007年6月以来の高水準となり、この点はほぼクリアと言ってもいいかもしれません。リセッション前の平均は3%、あと一息ですね。


7)退職率

リセッション前平均は2.1%。イエレン議長は自主退職率がいつ通常の水準に回復するかに注目していることを明らかにしていますが、労働市場の健全性を計る指標の一つですね。自発的に辞められる環境であることは、辞めても次があるという意味で健全性が高いということ。最新の5月の退職率は1.8%で、過去5年間で最高の水準に並んでいますが、01-07年の景気拡大期に記録した水準には及ばなかったようです。


8)解雇率

5月は1.1%、足元の1.2%から低下し2007年12月の1.3%以下に低下しました。リセッション前平均の1.4%よりもいい数字です。この点もクリアしたとみていいでしょう。


9)入職率(新規採用率)

リセッション前平均の3.8%に対し5月は3.4%と、4月の3.5%からも低下してしまいました。2007年12月は500万人、5月が471.8万人です。

全部で9つの指標のうち、現時点でリセッション前の水準に回復しているのは、非農業部門雇用者数と求人率、解雇率の3点のみです。リセッション前の水準にはまだまだ及ばない指標も多く、全ての指標がリセッション前の水準に回復するまで利上げしないと仮定すると、その時期は相当先だと思われます。今後見直されることもあるとは思いますが、このイエレン・ダッシュボードの存在が現在の米国金利が上がらない理由のひとつであり、ドル円相場の膠着を演出してしまっているものと見られます。今後のこれらの指標の推移に注目していきましょう。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount 

@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧