マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
8月1日、米7月の雇用統計が発表されるまでは強かったドル/円相場。1ドル103円台にまで上昇し、いよいよ長かったレンジ相場を上抜けしていよいよ円安ドル高の上昇トレンド再開かと期待した方も多かったと思いますが、今回もまた雇用統計の数字が発表されると下落に転じ、米国株式市場の変調に連れる形で101.50円近辺まで下落してしまいました。その後102円台に回復してきていますが、8月に入ってドル/円相場の下値不安が高まってきているようです。
そもそも8月は過去の経験則から「円高」になりやすい月であるとされています。その理由のひとつに「ヘッジファンドの換金売り」と呼ばれるものがあります。ヘッジファンドの多くは、11月本決算・5月中間決算を採用しています。5月は半期決算をにらんで、積み上げたポジションの整理を行う時期であることから「Sell in May(5月に売れ)」という格言が存在するくらいのカレンダーアノマリーとされていますが、全てのファンドがこの時期の決算というわけではありません。四半期ごとにヘッジファンドの決算時期は訪れます。つまり、3月末、9月末の決算を控えたポジション整理にも注意が必要だということになります。
では何故8月に注意が必要なのでしょう。
ヘッジファンドに投資している投資家は各四半期末の45日前までにヘッジファンドに解約を通告する必要があります。これを45日ルールと呼んでいます。投資家(企業など)が決算対策などで現金が欲しい際に四半期決算に間に合わせてヘッジファンドに投資している資金の現金化を依頼するというカレンダー的な要素もありますが、そのヘッジファンドの運用成績が良くない場合も切りがいいところで解約してしまおう、というケースもあるでしょう。直近では9月末の決算に向けての解約がどの程度出るのかが焦点でした。9月30日の45日前ということで8月15日までに投資からは解約の申し入れをしなくてはならないのですが、こうした解約申し入れは45日前のこの日に集中するというわけではないですので、実際にはさらに3週間ほど前から、つまり7月下旬くらいからヘッジファンドは解約申し入れによる現金化を開始しているとされています。現在のマーケット環境と照らし合わせてみると、ダウ平均が高値を付けたのが、7月17日の17,151ドル。時期的にはピッタリです。こうした換金売りによる米株の軟調が嫌気される時期であったこと、そしてファンド勢は利益の出ている市場の整理を行いますから日本株の売りも行った可能性があったのです。これがドル/円相場の頭を抑えてしまいました。
日経平均やドル/円相場だけを見ていると7月末が最も高く、下落を開始したのが8月に入ってからでしたので換金売りシーズンに入っていることを軽くみてしまったように思います。何しろ米4-6月期のGDPの好結果を受けた直後の米金利上昇に連れてドル/円相場は1日で1円動くという今年に入ってからは珍しい上昇幅を記録、日経平均も15500円台のレンジ上限を突破して15700円台まで買われたことで、チャート分析上からは新たな上昇トレンド発生と見て全く問題のない強さを示していたのですから。結局はこの動きは「ダマシ」と呼ばれるチャートのアヤでした。テクニカル分析だけでもファンダメンタル分析だけでも勝てませんね。相場の需給、つまり相場の動向は関係なしにこの時期に売らなくてはいけない人、買わなくてはいけない人がどのくらい発生するか、という点にも十分に留意しておかねばならないと、私も改めて勉強させられた動きとなっています。
米国株式市場が大きく崩れた原因は4-6月期のGDPがいい結果だったために、米国の量的緩和縮小が終了する10月を前に秋からはいよいよ金利の引き上げ時期が市場のテーマとなってくるだろうという観測が強まったことによる10年債利回りの上昇が引き起こしたとも指摘されましたが、現実にはその後の地政学要因で金利は再び低下、これが下落のきっかけにはなったかもしれませんが、主因ではなかったようです。そればかりか金利を再び急低下させたオバマ大統領のイラク空爆承認のニュースでも米株は大幅下落となっており、米株は「下げる時期に入っていたために、どのようなニュースをきっかけにしても下げる地合いだった」と考えた方がしっくりきます。
これが、どうやら45日ルールに絡むヘッジファンドの換金売りの時期であったが故に、経済指標による金利の動向や地政学要因で大きなボラティリティ(変動幅)を生む結果に繋がったと言えそうです。特に今年は「Sell in May」5月の株式の大崩れがなかったことを考えると、ポジションの整理が大きく行われるのはその次のタイミング、9月決算期にずれ込むかもしれないという見方もできたように思います。11月の中間決算前、というタイミングでもありました。
であるならば、カレンダー的には換金売りは今週いっぱいで打ち止めになると思われるため、ポジションの需給がもたらす下落は今週までで完了するものと思われます。ここからの円高の懸念はそれほど大きくはないとみていいでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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