第79回 IPO銘柄の上場審査が難航【北京駐在員事務所から】

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第79回 IPO銘柄の上場審査が難航【北京駐在員事務所から】

中国政府の証券監督管理委員会(CSRC、日本の証券取引等監視委員会と金融庁の証券業務関連部門に相当します)が、上海と深圳の証券取引所に株式の新規上場を予定し、上場申請を行っていた600社強のうち、129社について上場審査を打ち切り、上場を承認しないことを決定したと報じられています。

これら129社の所属業種は、農林水産、素材、娯楽、建設あるいは自動車部品等多岐に渡っています。報道によると、今回のCSRCの決定により、129社に出資を行っているベンチャーキャピタル(VC)及びプライベート・エクイティ・ファンド(PE)270社が、株式新規上場(IPO)に代わる出口戦略(出資の回収方法)の策定を余儀なくされているそうです。

オンラインゲームの開発を手掛ける北京麒麟網文化は、129社のうち最多となる13社のVC及びPEから出資を受けています。同社を筆頭に、10社以上からの出資を受けている企業がかなりの数に上るそうです。一般的には、出資者が多いほど、各社の思惑が一致せず、IPO以外の出口戦略の策定が困難になると言われています。

出資企業側では、深圳市のベンチャーキャピタル深圳市創新投資集団が、129社のうち5社に出資を行っており、今回のCSRCの決定により最も大きな影響を受けたとされています。

IPOによる投資回収が困難になった場合に、最も多く取られる代替手段はM&Aによる持分(株式)の売却です。先月7月中に中国国内で報じられたM&A案件のうち、12件、金額ベースで29億米ドル(約3,000億円)にVCあるいはPEの関与があったそうで、この29億米ドルは取引金額全体の14%に相当します。

IPOによる投資回収は、株式市場の状況や、今回のような政策当局の判断に強く影響されますので、不確実性が高いと言えます。
一方、M&Aは、良い買い手が見つかれば、IPOよりも簡単に、また時間をかけずに実行できますので、今後、VCやPEの出口戦略として重要性が高まっていくと見られています。
一般的には、対象企業が成長途上にあり、株式を取得し経営を主導することで企業価値を高められる余地(可能性)が大きいほど、買い手を見つけることが容易になります。VCやPEは、このような観点で、M&Aにより出資の回収を図る投資先を選定し、買い手を探します。今後は、M&Aの仲介や助言業務の分野でビジネスチャンスが拡大することも期待されます。

中国のIPOは、関係者による不正行為の横行を受け、2012年の末から1年以上にわたり停止し、今年1月にようやく再開、その後4カ月のブランクを経て6月に本格的に再開と紆余曲折が続いています。
上場審査に加え、市場への供給(上場社数や金額規模)、さらには初値の形成やその後の株価動向に至るまで、当局の関与が強いことも特徴です。
一方、株式市場では、個人投資家の存在が非常に大きく、IPOの規模と成否は、投資家心理や市場に流入する資金の量、さらには全体の株価動向をも大きく左右するものとなっています。

CSRCは、IPOへの関与の度合を徐々に低める方針とも伝えられていますが、手綱を緩めすぎて、再び不正行為の横行を許すようなことがあってはなりません。非常に難しい舵取りを求められることになります。
今後も、中国株式市場の動向を占う上で、IPOに関連する当局の政策判断と、投資家の需要、上場後の株価の推移は重要な材料となりそうです。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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