第127回 豪ドル急落の背景 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第127回 豪ドル急落の背景 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

週明けの豪ドルは窓を開けての急落スタート。週末に発表された中国8月鉱工業生産の伸び率は2008年以来の水準へ鈍化。小売売上高も予想を下回るなど、中国の指標は貿易収支発表後から弱めの内容が続いており、景気減速による成長目標未達の可能性が懸念されたことから豪ドル円は96.39円まで、豪ドルドルは0.8983ドルまでの下落となっています。
下落は先週から始まりました。9月8日から12日、豪ドル円は98.64円から96.92円まで大幅下落、この期間はドル円相場が105円から107.39円まで2円以上もの上昇を見せたのですが、豪ドル円はドル円上昇に連れ高とはなりませんでした。ドルストレート通貨で見ても、先週1週間で豪ドルドルは0.9373ドルから0.9029ドルまで3%超も急落しています。つまり豪ドル円は「米ドルに対して豪ドルが大きく下落した」ことに連れた下落だったのですが、これまで米ドルの次に強かった豪ドルに何が起こったというのでしょうか。

◆これまで豪ドルが米ドルの次に強かったワケ

先週から豪ドルが下落を始めましたが、それまでは米ドルの次に強い通貨でした。昨今の中国の景気動向や商品市況を見ると、これらに影響を受ける豪ドルが強いというのには違和感がありましたが、おそらくこれまでは「消去法」的に豪ドルが選ばれていただけで、豪ドル以外の通貨があまりに弱かったことが豪ドル高の背景にあったと思われます。

① ユーロ安

欧州はインフレが低下しており、デフレ入り目前。ウクライナ問題から発動された対ロシア制裁は、欧州経済に影を落とし、一人勝ちだったドイツの景況感も悪化。ECBは6月のマイナス金利導入に加え9月はABSとカバーボンドの購入に踏み切るという追加緩和策を発表したことで、通貨ユーロの下落が続いています。


② ポンド安

今週19日にイギリスからの独立を問うスコットランドの住民投票を控え、独立賛成派が勢いを伸ばしていることで通貨ポンドが売り込まれています。年内最も早いタイミングで利上げに踏み切るだろうと見込まれていたために、2014年前半はポンド買いが旺盛だったのですが、その利上げの思惑も大きく後退してポンドを支える材料が見当たらなくなってしまいました。


③ 円安

9月入りからドル円相場は騰勢を強め107円台にまで一気に円安が進みました。その背景にはGPIFによる日本株買い、外貨買いが本格化するという思惑が強まっていることが上げられますが、日銀の追加緩和期待が強まっていることも大きなドル円上昇の材料となっているようです。内閣改造以降、閣僚らからは消費税再増税に向けた強いメッセージが繰り返されていますが、4-6月期のGDPがマイナス7.1%に悪化しても尚、そのシナリオを崩さないという姿勢から、景気悪化のテコ入れに日銀が動かざるを得ない状況に追い込まれているという見方が強まっているとみられ、海外勢が日銀緩和期待から旺盛にドルを買っていると指摘されています。


④ NZドル安

NZ中央銀行は2014年に入って3回連続の利上げを実施し、NZドルも大きな上昇を見せていましたが、住宅市況が落ち着いたことや、貿易収支の悪化などから、利上げを休止しました。また、NZ乳業大手フォンテラ社の乳製品価格オークションで乳製品価格が2月の高値から半値近くにまで下落していることも嫌気されています。NZ輸出の4分の1をも占めるとされる乳製品。貿易に大きく影響することから、NZドルもまた、下落が止まらない状況となっています。

米ドル以外の主要通貨の全てに明確な売り材料が存在しているのですが、豪ドルは、唯一、明確な売り材料が存在していなかったことで、売り込まれることはなかったと思われます。それが、先週9月8日の週からは一転して大きな下落に見舞われているのですが、この間に明確な売り材料が出たわけではありません。

ロイターによると、この間、ディーラーらは豪ドル・米ドル取引の出来高が2倍に増加したと報告しており、レバレッジがかかっている市場参加者には明白な売り傾向が認められるということです。米商品先物取引委員会(CFTC)の統計によれば、投機的な買い手による豪ドルのネットの買い越しポジションは9月最初の週にピークに達しており、豪ドルが今後さらに下げる可能性を示唆しているとしています。背景にあるのは「キャリートレードの巻き戻し」。金利の安い米ドルを借りてきて、金利の高い豪ドルを買っていたが、それを手仕舞っているということですね。

今週は9月のFOMCが開催され、イエレンFRB議長の記者会見もあります。今回9月FOMCで声明の文言変更などがあり、それもタカ派的な内容となるのではないかという見方が強まっており、ドル買いが強まっているのですが、これまでは明確な売り材料がある通貨の下落という形でのドル買いが目立っていました。豪ドルに関していえば、これまで消去法的な理由で選択されてきたが故に、売り込まれていなかったのですが、いよいよFOMC直前になってイベントリスクを避けるポジション調整が入ってきたものと思われます。ユーロ、ポンド、円、NZドルなどの他通貨はドルに対して相当売り込まれてしまっているのですが、豪ドルは逆にドルに対して買いのポジションが膨らんでいたために、それが整理される過程においては下げ余地が非常に大きいチャートとなっています。
それほどに、今週のFOMCは注目度が高く、ドルがさらに上昇加速となる可能性が高いとみられているということでしょう。豪ドル売りの流れはFOMCまでは継続するものと思われますが、結果次第では、最も早く買い戻される通貨となるとみています。豪ドル円は今週の安値で拾ってみたいですね。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount 

@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧