第35回 「M&A」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第35回 「M&A」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株価はここにきて遂に1月上旬の水準(つまり、ほぼ今年の初値)を越え、年初来高値を更新しました。これまでは今一つピリッとしない相場展開にありましたが、ようやく振出しに戻ったことになります。とはいえ、アベノミクスで大相場となった昨年と比較してみると、やはり勢いには物足りなさがまだまだ否めません。このことは、株式市場は昨年にはなかった何かをリスク要因として織り込んでいる可能性があります。具体的には、消費税の影響、地政学リスク、為替、中国などの不透明さが嫌気されているのかも知れません。好材料は堅調な企業業績ですが、概してそれは織り込み済みであったということなのでしょう。今後、相場が膠着状態から脱していくためには、これらリスク要因に何らかの変化が生じることが必要条件になると考えます。このことは、去年のアベノミクス相場の単純な再来は想定できないということかもしれません。そういえば、このコラムでは何度か消費税や地政学リスク、中国などに言及してきました。こういった視点が現実のパフォーマンスにきちんと結びついていれば、筆者ももう少し運用がうまくなるのですが(苦笑)。


さて、今回取り上げるテーマは「M&A」です。これは旧くて新しいテーマとも言えるかもしれません。しかし、かつては多くがM&A「期待」先行であったのに対し、最近は実に多くのM&Aが現実に起きています。これに併せ、対象企業の株価も大きくその水準を変えるケースも少なくありません。また、単にM&Aというイベントに留まらず、その後の経営手腕(の期待値)までも株式市場はしっかり注視しており、M&Aの発表で大きく市場の評価を下げるケースもあります。かつての「期待」先行の時代から、現在はM&Aを相当クールに評価する時代へとシフトしてきていると言えるでしょう。そういった観点からすると、既に「M&A」は普通のこととなり、市場のテーマとは言い難いものとなってきたのかもしれません。とはいえ、M&Aは既存の業界地図を一気に塗り替える強烈な起爆剤の一つであることは間違いありません。M&Aに頼らずとも自社開発で十分対応可能、といった声も過去には聞かれましたが、現在は自社開発の時間をM&Aで買い、非連続的に形勢を切りかえるというメリットを前向きに捉えるというスタンスが経営者の中では定着していると言ってよいでしょう。


問題は、これを株式投資にどう活かすか、です。当然ながら、M&Aの事前情報を入手することは不可能ですし、万が一入手してもそれで投資行動を起こすことは犯罪です。一方、数多ある上場企業の中でM&Aをこれから行おう(あるいはその対象になる)という企業をピンポイントで見つけ出すのも至難の業でしょう。では、どうするか。残念ながら、「そんなウマい方法」はありません。非連続的な変化ということは、それだけ予測もでき難いということなのですから。しかし、M&A銘柄になるのではないか、といった候補を絞込むことはできるはずです。M&A頼みのみで投資するのは非常にリスキーですが、大きなポテンシャルを持つ投資材料の一つとして捉えれば、有効な判断基準と捉えることができます。例えば、バリュエーションなどで同じような投資魅力度の企業が幾つかあった場合、その選択の決め手としてM&Aの可能性の多寡を勘案する、という具合で活用できると考えるのです。


ここでは、そのM&A銘柄候補の選定へのコツをご紹介しましょう。ただし、これは筆者の経験則的に基づいたものですので、これら経験則に合致しない例があることもご了承ください。コツは以下の4つです。つまり、①財務が健全であること、②業界上位企業であること、③「時間を買いたい」と思わせる業界事情があること、④異文化をマネージできる経営文化を有すること、の4点です。①は当然です。LBOといった例もありますが、これは特殊な例でしょう。②は、業界地図を大きく塗り替えるには業界上位であることが必要なため、です。下位によるM&Aも多々ありますが、株式市場へのインパクトは限定的になると考えます。③は、まさにM&Aの決め手になるポイントです。ネット関連や医薬品業界はその典型でしょう。そして、最も重要なのが④です。これが欠如していれば、M&Aを実行しても、結局失敗するということになりかねません(過去、この実例は枚挙に暇がありません)。どうでしょうか。なかなか外からこれらを見極めることは難しいですが、ネットなどでも十分調べることは可能です。是非参考にしていだければ光栄です。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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