第86回 外資系IT企業でのリストラの動き 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第86回 外資系IT企業でのリストラの動き 【北京駐在員事務所から】

中国に進出する海外企業は、以前はその多くが安価で豊富な労働力を求める製造業で、まさに中国を「世界の工場」としていました。しかしながら、近年経済発展により物価、賃金がともに上昇し、中国で製造された製品の輸出競争力が低下したため、徐々に「中国で製造し中国で販売する」方向にシフトしています。
近年、輸出用製品の生産拠点としては、東南アジア諸国の注目度が高まっています。

労働集約型の製造業に加え、中国を研究開発の拠点とする企業や、技術者を多数雇用し、システム開発等を行うIT企業も増えていたのですが、最近になって、そのようなIT企業に中国事業を整理縮小する動きが出ているそうです。

pdfファイル(画像ファイル)の作成ソフト"Acrobat"などで有名な米国のAdobe Systemsは、9月24日(水)に中国の研究開発拠点を12月末で閉鎖すると発表しました。これにより400名程度の従業員が解雇される見込みです。
同社は、上海、北京、広州、深圳、香港および台湾の営業拠点は維持するとしています。市場としての中国は引続き成長が期待されますので、当然ではあります。
Adobe社は2012年以降、全世界で研究開発拠点の集約を進めており、最も多い時で80ヶ所に設けていた拠点を、56にまで削減しています。そして今回、中国拠点も整理の対象となりました。

Adobe社以外にも、IT企業でリストラの動きが続いています。
同じく米国のMicrosoftは、8月に中国で4,000人を超える従業員を削減すると発表しました。
これは同社の歴史上最大規模のリストラだそうです。
対象者の多くは、同社が4月に買収したフィンランドのNokiaの携帯電話事業に従事しており、M&Aに伴うリストラという事情はありますが、世界のIT企業にとって、中国の位置づけが変化していることの象徴とも見られます。

また、ルーターなどネットワーク機器の開発で有名なCisco Systemsも、全世界で従業員6,000名の削減を計画しており、中国事業がどの程度対象に含まれるかが注目されています。

マーケティング調査会社の担当者は、海外の大手IT企業は、近年中国に多額の投資を行い、事業を拡大したものの、期待したほどの利益を計上していないとし、事業の見直しは必然と指摘しています。

私の学生時代の友人は、大手のシステム開発会社でオフショア開発事業(開発作業を海外の業者に委託する)に従事し、プロジェクト管理を担当しています。
以前は、業務委託先の多くが中国企業で、中国に頻繁に出張していたのですが、ここ数年の出張先はベトナム、ミャンマーやインドにシフトしています。
「漢字を共有することで相互の理解が容易」という点で、中国企業への委託にメリットがあったのですが、人件費の上昇が速く、中国の地位は低下してしまったそうです。

IT企業は、学生の就職先として人気が高く、また雨後の筍のように新たな企業が続々と誕生しているのですが、海外からの受注減少、あるいは世界的な地位の低下は、人材ニーズの減少につながりかねません。
もちろん、国内市場が成長を続けており、今後も有望ですので、大きな波乱は考えにくいところですが、上記のような変調ぶりは気になるところではあります。

経済成長の減速に加え、産業構造、雇用環境についても変化が見られ、先行きに若干の懸念を感じさせるニュースでした。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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