第88回 政府のぜいたく禁止令で上海蟹の価格が急落 【北京駐在員事務所から】

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第88回 政府のぜいたく禁止令で上海蟹の価格が急落 【北京駐在員事務所から】

10月も後半となり、北京の街中では上海蟹の広告が目につくようになりました。上海蟹は、湖などの淡水に生息する蟹で、上海市に隣接する江蘇省の蘇州市にある「陽澄湖」が最も有名な産地として知られています。
産地の名称を付して「陽澄蟹」として販売されていますが、ご多分にもれず、陽澄蟹の市中での流通量は、生産量を大きく上回っている(即ち多くが偽物)と言われています。
他の多くの蟹と同様、蒸篭で蒸して蟹酢で味わうのが一般的です。
サイズが小さいため、脚の肉は量も少なく食べにくいのですが、内子(卵)や蟹味噌の味は濃厚で、毎年多くの人が「欠かせない秋の味覚」として楽しみにしています。

「陽澄蟹」の本物は値段も高く、贈答品としても多く用いられていますが、今年は習近平政権が推し進める汚職撲滅・ぜいたく禁止令の影響により、政府機関の宴会等での需要が激減し、価格も急落しているそうです。
同キャンペーンにより、昨年来、高級酒の白酒「茅台酒」や高価格帯の自動車の需要が大きく縮小したと報じられていましたが、今年はついに上海蟹にまで影響が及んだ形です。
水産業界の関係者は、「政府機関による宴会等での上海蟹の消費はほぼ皆無」と話しています。

価格も、最近10年間ほど、政府機関等での宴会需要と贈答品需要(賄賂目的も含めて)に支えられ一本調子で上昇していましたが、今年は一部の地域で前年比40%程度の大幅下落となり、様相が一変しています。
500グラム程度の平均的なサイズで、価格は120元(約2,000円)程度となっています。
日本で販売されるたらば蟹や毛蟹は更に高価ですが、中国の物価水準でこの値段は「ぜいたく」と言えるものです。
販売業者には、一般市民が購入し自ら消費できるような価格での販売が求められています。

政府機関関係の需要が消滅することで、価格が大きく変動するというのも、中国ならではとは言え、経済構造のいびつさを認識させられます。
茅台酒の製造元である「貴州茅台集団」は8月に声明を発表し、「中国の白酒市場では、現在供給が需要を上回っている」と危機感を示しています。
影響は贈答目的で多く購入される海外の高級ブランド品にも及んでいます。最大手のルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーは、中国を含むアジアでの販売が7~9月期に大きく減少したと発表しました。特に中国でバッグ類とブランデーの売上減少が顕著であったそうです。
また、英国のバーバリーも、中国での販売について、本年1~6月期はなお増加しているものの、前年までの2ケタ成長の勢いは無いとし、先行きに対する警戒感を示しています。

上海蟹、白酒、海外ブランド品のいずれも、今後は一般市民の需要を取り込む努力が一段と求められるところですが、専門家は「海外ブランド品については、一定の市場成長が期待できるが、白酒は若年層のワイン志向等があり、先行きは厳しい」と述べています。
いずれにしても、需要、市場規模に見合った適正な流通と価格設定がされ、これらの商品がより多くの市民にとり、手の届くものとなることが望まれます。

秋の深まりとともに届けられる上海蟹のニュースから、中国経済の特異さを感じさせられることとなりました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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