第89回　APEC開催を控え北京市政府は大気汚染の防止に躍起　【北京駐在員事務所から】

11月10日（月）及び11日（火）の二日間、北京市郊外の雁栖湖で、APEC（アジア太平洋経済協力）首脳会議が開催されます。
会期中に日中首脳会談が行われるか否かが注目を集めていますが、香港の選挙制度民主化を巡る対立、イスラム過激派組織「イスラム国」への対応やエボラ出血熱の感染拡大の防止等、新たな国際問題、課題が目白押しで、これらを討議する極めて重要な会議となります。

北京の街中でも、「APEC歓迎」等の看板が掲げられ、開催に向けたムードが高まりつつありますが、これに水を差しかねないのが、このところ悪化の一途をたどっている大気汚染です。
今さら隠しようもないと思うのですが、参加国の首脳に恥ずかしいところは見せられないということでしょうか、北京市では以下のような対策を取ることを発表しています。

(1) 11月3日（月）～12日（水）の間、乗用車の市内乗入れ規制を強化

(2) 11月7日（金）～12日（水）の間、政府機関、学校、公的団体等は臨時休業
(3) 工場の操業や建設工事を停止

研究機関の専門家は、これらの対策はこれまでに取られた大気汚染対策の中で最も厳しいものと述べており、期間中、汚染物質の排出を30％から40％削減できると自信を示しています。
特に、上記(1)の乗用車の利用規制強化は、2008年の北京オリンピック開催時にも実施されたものですが、現在、ナンバープレートの末尾の番号により、平日は全体の20％に相当する乗用車の市中心部への乗り入れが禁止されているところ、これを50％にまで高めるもので、効果が期待されています。

一方で、警備の強化とも相まって、公共交通機関（地下鉄及びバス）の混雑が激しくなることも予想され、専らバスと地下鉄頼みの私などは憂鬱になってしまいます。

北京では、APEC終了後、来月後半になりますと、市全域での集中暖房が始まり、このための石炭燃焼が始まるため、一年で最も大気汚染が酷くなります。
10月19日（日）に、重度の汚染の中開催された北京国際マラソンの模様をご覧になった方もおいでかと思いますが、今年は、10月も断続的に汚染の酷い日があり、昨年までと比べても状況は悪いように思われます。
「風が吹かない限りお手上げ」ですので、冬場が思いやられます。

北京オリンピックの開催期間中も、今回と同様に強力な規制が行われ、汚染が回避されたのですが、終わってしまえば元通りで、その後は年々悪化の一途です。
政府は、古い自動車や工場設備の廃棄促進など、対策を進めていると強調していますが、北京市だけの問題ではなく、隣接する天津市や河北省、さらには中国北部、東北部にかけて重度の汚染が広がっており、汚染物質の排出量そのものが制御不能なほど増加しています。
経済発展の遅れた地域では、汚染物質の削減に後ろ向きの姿勢が目立ち、対策を実施するにも足並みが揃いません。水不足の問題とあわせ、いずれは北京から南方への遷都も必要になるのではと思われます。

長い歴史を持つ中国、いずれは教科書や年表に、かつての首都西安や南京のように、「昔北京に首都が置かれていた」、あるいは歴代の王朝と同様、「20世紀から21世紀にかけ、中華人民共和国が存在した」と記されるのでしょうか？
これまで、本コラムでも何度かご報告申し上げました大気汚染問題から、改めていろいろなことを考えさせられてしまいました。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト