第90回 地下鉄とバスの運賃改定 【北京駐在員事務所から】

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第90回 地下鉄とバスの運賃改定 【北京駐在員事務所から】

北京では、年々自動車の保有台数が増加し、交通渋滞が激しくなっています。加えて、排気ガスが大気汚染の原因の一つにもなっています。
北京市政府は、市民に自家用車の利用を控え、公共交通機関(地下鉄及びバス)を利用するよう促しており、多額の補助金を投入して運賃を低く抑えています。

現在、地下鉄の運賃は、乗車距離にかかわらず2元(約37円)です。バスの運賃は最低1元(約18円)で乗車距離に応じて加算されます。
さらに、バスについては、ICカード(東京圏のSUICAあるいはPASMOと同様のものです)を使用すると6割引となります。
この水準は、中国の他の都市と比較しても低いもので、地下鉄、バスともに路線により若干のばらつきがあるものの、朝夕のラッシュ時には、高度成長期からバブル期の東京のような大変な混雑が発生しています。

自家用車の利用抑制という政策目標があるとはいえ、補助金の投入と地下鉄の一律運賃制(北京の地下鉄はこれまで一貫して一律運賃を採用してきました)には批判の声も多く、市政府は値上げに向けて検討を進めてきました。
7月には、運賃改定では初めてとなるパブリックコメントを募り、また先週10月28日(火)には利用者、交通局担当者等が参加する公聴会を実施し、値上げの内容がほぼ固まりました。

地下鉄については、初めて距離別運賃が採用され、初乗り(乗車距離6㎞まで)が3元(約55円)に、また最高額が9元(約166円)になります。
ICカードを利用し、月間の支払額が100元(約1,850円)を超える乗客については、利用金額に応じて一部割引があります。
また、バスの運賃は、初乗りが2元、最高額が9元になり、ICカード利用の場合には5割引となります。

日本の運賃と比較すると、まだ安いように思えますが、大卒初任給が日本の半分から3分の1程度ですので、庶民にとっては痛い値上げです。
北京市政府の試算では、現在一律2元の地下鉄運賃が、値上げ後は平均で4.3元になるそうで、倍以上の負担になります。
同じく試算によると、現在、北京市民は、平均で可処分所得の2.6%を地下鉄運賃の、また1.1%をバスの運賃の支払に充てているのですが、値上げ後はこれがそれぞれ5.4%と2.4%に上昇します。
また、市当局は、今後エネルギー価格の動向や経済成長に応じ、更なる値上げも検討するとしており、市民生活への影響が懸念されるところです。

それでも、市民の間ではこの値上げ案を支持する声が多いようで、特に地下鉄運賃の距離別への移行は合理的と評価されており、また利用額が多い場合に割引が得られることについても歓迎との意見が多いそうです。
加えて、バスの路線網拡充や、増発による混雑緩和等、サービス水準の向上も期待されています。

地下鉄については、切符の販売機の更新が必要なこともあり、値上げの実施時期は未定のようですが、値上げ後の利用客の動きがどのように変化するかは気になるところです。
自家用車の利用も、制限が強化される方向にあるため、公共交通機関から自家用車への大きなシフトが起きるとは考えにくいところですが、それでも渋滞が一層酷くなり、バス利用が不便になる可能性は否定できません。
値上げとあわせ、「泣きっ面に蜂」となることは勘弁願いたいものです。
北京の地下鉄は、営業キロ数で世界一とも言われていますが、実際には日本であればJRや私鉄がカバーしている郊外の路線を含んでおり、路線網は貧弱です。また多くの路線が4両あるいは6両での運行となっており、輸送力は限られています。
自家用車やバスを含めた、都市全体の交通網の設計が出来ていないように思え、利用者としては不満を感じることが多いです。
それでも、地下鉄は路線の新設や延長の計画が目白押しで、整備が完了すれば利便性が向上し評価も高まるかもしれません。

改めて、日本の大都市の鉄道網の充実ぶりを認識し、有難いと思えてしまいました。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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