マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
原油価格が大きく下落しています。2014年7月くらいまではウクライナ問題やイスラム国などの地政学リスクを材料に国際指標価格であるWTI原油価格は100ドル台を超える高値圏で推移していたのですが、原油の供給に影響を及ぼすことがなかったことで、地政学リスク分を織り込んで上昇していた「プレミアム」分が剥落する過程で、原油価格は下落の一途を辿っています。そもそも今年はドル高が顕著であったことも重なり、国際商品価格全般が下落傾向にあり、「金融マクロ要因」も原油市場にとっては上値を抑える圧力に。それでも世界的に景気が良ければ需要増から需給が締まることで価格はサポートされたはずですが、中国の景気失速をはじめ、IMF国際通貨基金も欧州や日本も景気の先行きに懸念を表すなど伸び悩み。「需給緩和」状態にあったため11月27日のOPEC総会はオイル関係者のみならず、世界のマーケット関係者の関心が高いイベントでしたが、減産合意ならず、で原油価格はさらに下落し、とうとう60ドル台へと沈んでいます。
原油価格の下落を受け、カナダドルやノルウェークローネ、メキシコペソなど産油国の通貨は軒並み急落となりました。原油や天然ガスなどの輸出依存度が高いロシアの通貨ルーブルも大きく下落となり、対ドルでは過去最安値を更新しています。この影響は産油国だけにとどまらず、中国に鉄鉱石を輸出しているオーストラリアドルやブラジルレアルなどの資源国も売られる展開に。原油をはじめ、コモディティ価格の下落は資源輸出で外貨を得ている国の通貨にも影響を及ぼしました。商品市況の悪化が続く限り資源国通貨の軟調地合いは長期化するとの見方が広がっています。
そして、この原油安がドル円相場にも影響してくるという見方も出てきました。原油価格の下落によって資源国通貨の下落が加速すれば、逆に基軸通貨であるドル高が促されるというのです。また、自動車社会である米国はガソリン価格下落で消費マインドが活性化し経済の拡大期待が高まる可能性があるとされています。英HSBC銀行の調査では、過去原油価格が30%以上下落した局面では、1年後の米S&P500株価指数は平均11%上昇したそうですから、強い米国連想からのドル買いに繋がる可能性は大きいといえるでしょう。
原油安はインフレも抑制にもつながりますが、FRB米国連邦準備制度はエネルギーの影響を除いたベースの物価指標を参照しており、原油価格の動向で金融政策の方向性が左右される可能性は低いとみられます。つまり、原油安は金融政策に影響を及ぼす指標には寄与しないことから、米国の金利引き上げ時期をめぐる議論に影響もないと思われ、これによるドル安警戒は大きくないということです。
さらに、デフレ脱却を掲げている日本。10月31日に日銀は量的緩和第2弾を発表して市場を驚かせましたが、11月28日に発表された10月のCPI全国消費者物価指数の上昇率は、消費増税の影響を除き前年同月比0.9%と1%を割り込んでいます。この原油安による物価上昇率の鈍化は日銀に対しさらなる追加緩和を迫るのではないか、そんな見方も出てきました。この10月に追加緩和政策を発表したばかりですので、今すぐに、ということではありませんが物価上昇率が低ければマーケットは日銀が目標達成のためにさらなる追加緩和を余儀なくされるとみるでしょう。この思惑だけでも円安が進んでしまう可能性は大きいと思われます。
原油安は、資源国、新興国通貨の下落、対して基軸通貨ドル高を誘発。そして日銀の更なる量的緩和政策を迫る可能性からの円安を連想させることで、さらにドル高円安を加速させる、こんなシナリオがじわじわと年末に向けた相場に織り込まれていくかもしれません。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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