第96回 汚職官僚の代名詞「裸官」【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第96回 汚職官僚の代名詞「裸官」【北京駐在員事務所から】

中国では、習近平政権の発足を機に、政治家や官僚の汚職、腐敗を撲滅するための制度改正や運動が大々的に行われています。
汚職の発覚により、地方政府や国有企業の幹部が失脚とのニュースも、連日のように報じられています。
以前であれば追及の手が届きにくかったトップレベルの者が職を追われるケースもあり、政権の「本気度」がうかがえるのですが、「どんなに頑張っても所詮氷山の一角」との指摘もあり、「単なる人気取り政策」と批判する声も少なくありません。汚職の問題が根深い、深刻なものであることが理解できます。

汚職官僚の多くは、配偶者や子女を海外に移住させ、不正に蓄財した資産を家族の下に移し、また不正が発覚した場合には自らも移住しようと備えているそうです。
このように、中国国内に家族や資産を持たない官僚は「裸官」と呼ばれています。
もちろん、中には純粋に子女の教育目的のために移住させている者もいるのでしょうが、捜査の手から逃れるためという不純な動機を持つ者が多いということで、裸官は汚職撲滅運動の重要なターゲットになっています。

本年1月に、中国共産党の中央委員会は新しい規則を制定し、配偶者や子女が海外に移民となっている官僚を昇進させないことにしました。これは裸官に対する初めての規制だそうです。
また、裸官は政府、国有企業、軍、ならびに外交や安全保障を担当する部署、組織で重要な職に就くことが出来ないと定めました。昇進を望む者は、配偶者や子女を中国に呼び戻すことが求められます。
そして、一昨日15日(月)に、同委員会の組織部は裸官3,200名を特定し、うち家族が帰国を拒んだ者など1,000名について降格処分を行ったと発表しました。
今回は3,200名とされていますが、裸官については、「過去20年間に18,000名が国外に逃亡した」あるいは「現在も1万人は下らない」等、研究機関の調査結果から噂に至るまで様々な情報が飛び交っています。

研究機関の研究者は、裸官は不当利得を海外に移転することで、当局の捜査、追及を困難にする危険な存在であると指摘しています。
また、別の研究者は、家族を海外に移住させた者は、彼らの生活費を捻出する目的で汚職に手を染めやすいとし、裸官を昇進させないとの方針は状況を改善する上で望ましいと述べています。

中国では、政治家や官僚の報酬(年収)は高級幹部クラスでも日本円で数百万円程度とされており、一方で多くの者が子女を海外に留学させているそうです。全てが「不正」とは言えないのでしょうが、内容や程度の差こそあれ、恐らくほとんどの者が特権的な「役得」を得ているものと思われます。これが、大学生の公務員人気や、国民の経済格差に対する不満につながっています。

日本でも、1970年代のロッキード事件を筆頭格に、90年代くらいまでは、政治家や官僚を巡る汚職事件が頻発していましたが、公共事業の入札制度の改善等により、以前よりは少なくなっているように思われます。
また、問題が発覚した時のペナルティ(刑罰や社会的制裁)が大きいことも抑止力になっているものと考えられます。
一方、中国では、地方の村レベルでも、幹部は億円単位での蓄財をしていると言われ、スケールは段違いです。これに「赤信号、皆で渡れば怖くない」が加わるのですから、手を染めない方が不思議と言うことになります。
習主席は不退転の覚悟で汚職撲滅に取り組んでいると言われていますが、一掃は容易でなく、また対応次第では政権内部での抗争など、国家の運営にも関わりかねない事態に発展することも懸念されます。
成果を挙げ、国民の理解を得ることが出来るかどうか、注目されるところです。
政治家、官僚の汚職、腐敗事件は連日のように報道されていますが、改めて問題の大きさ、深刻さを実感させられることとなりました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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