第97回 音楽著作権の保護強化を巡る動き【北京駐在員事務所から】

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第97回 音楽著作権の保護強化を巡る動き【北京駐在員事務所から】

先々週12日(金)に、中国の音楽業界の関係者による会議が北京で開催され、音楽制作会社、著作権管理機関や法律事務所の関係者が、音楽著作権保護の強化と権利侵害に対する厳罰化を求める声明を発表しました。
音楽制作会社の代表者は、「海賊版のCDから無料配信まで、著作権の侵害は長く業界の悩みの種となっている」と問題の深刻さを訴えています。
また、シンガポールの著作権管理会社の創業者は、中国では著作権侵害に対するペナルティが軽く、これが問題を大きく、かつ深刻なものにしていると指摘しています。


中国の著作権法によると、許可なく録音データをネット上で発信した者は、著作権侵害行為の中止、侵害により生じた影響の修復、謝罪、ならびに金銭的損害に対する賠償を含む民事責任を負うとされています。
しかしながら、著作権侵害による損害については、認定される金額が少なく、かつ裁判所が明確な算定基準を示していないことから、「やり得」の状況になっています。


北京の法律事務所に所属する弁護士によると、著作権侵害を巡る訴訟では、支払を命じられた賠償額が最高で11万元(約215万円)で、多くの案件では1,000元(約19,500円)以下に止まっているそうです。
一方で、著作権の防御(違反者への警告、損害賠償請求や訴訟など)に要する費用は少なくないため、費用対効果を勘案した著作権者の多くは、侵害があっても泣き寝入りを余儀なくされています。


現在、政府は著作権法の改正を予定しており、権利侵害者に課せられる損害賠償額の上限を現在の50万元(約975万円)から100万元(約1,950万円)に引き上げ、かつ賠償金の支払以外にもペナルティを課す方向とされています。
賠償金額の認定については、上限額を定めることなく「実損」を基準とすることが適切と思われますが、この改正が状況改善の第一歩となることが望まれます。


法令改正に加えて、政府機関も、著作権侵害の監視体制を強化し、あわせて紛争仲裁の機関を設置することで、問題の予防と早期解決に動きつつあります。
また、一部の専門家は、韓国の音楽業界が著作権の保護を重視しているとし、中国は韓国と協働して有効なシステムの構築を図るべきと主張しています。


中国では、1990年以降生まれの若手音楽家が台頭し、音楽関連市場の成長を牽引しています。
業界関係者は、著作権侵害の問題を放置することで、彼らが十分な報酬を得られないようでは、中国の音楽の質の低下を招きかねないと憂慮しており、改善を促しています。
その一環として、有料での音楽配信(ダウンロード)サービスが来年の後半には開始される見通しとなっており、これも著作権管理の正常化に寄与することが期待されています。


中国では、著作権に限らず、製造業での特許やノウハウを巡る侵害、あるいは商標権を巡る問題が頻発しており、日本企業との紛争もしばしば発生しています。
最近では、日本の地名や特産品の名称を一方的に商標登録し、これが日本からの輸出等の障害になるケースも生じており、知的財産権保護の重要性についての認識はまだまだと言えます。貿易その他商取引の支障となるだけでなく、国際問題にもなりかねない危険な状況となっています。
音楽著作権保護の強化の動きをきっかけに、他の知的財産権についても、保護強化に向けて動きが強まることが望まれます。


中国が発展途上国から先進国へと階段を登るためには、知的財産権の保護の強化が必須の課題です。今後の対応に注目したく思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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