マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
豪ドル/米ドルは2011年7月に天井をつけて下落に転じており、なお下落が続いています。オーストラリアの輸出の20%が鉄鉱石であるため、その影響である可能性も否定はできません。オーストラリアのGDP全体に占める鉱業の割合は10%程度。そのうち4%が鉄鉱石輸出によるものとされています。オーストラリアは歴史上最長の好景気で、GDP(国内総生産)プラス成長は23年間も継続中です。この拡大を支えてきたのは中国の台頭。特に2011~2012年は鉱業GDPがGDP全体の平均を上回るほどの好調を見せていたのですが、昨今のコモディティ価格の下落によりGDPの伸び率は鈍化しています。
下落が続く鉄鉱石ですが、昨年9月にゴールドマン・サックスのアナリストが「鉄の時代の終焉」と題するリポートで、「新規生産能力がついに需要の伸びに追い付き、利益幅が歴史的平均値に戻り始める転換点である」と指摘。その時に予想した海上輸送される鉄鉱石価格予想は2016年1トン当たり82ドルから79ドルに、17年の見通しについては85ドルから78ドルに、それぞれ下方修正しました。ところが、現在の鉄鉱石価格はすでにその予想をも下回る70ドル台です。
鉄鉱石価格は1980年以降2004年まで長期にわたり10ドル台で推移してきたことを考えれば、2005年からのこの10年の上昇が異常だったと考えることもできます。2011年には167ドルまで上昇しました。これは現在原油市場で起こっている大きな価格修正と似ています。オーストラリアの主要メーカー生産コストは1トン当たり35〜40ドルだと言われており、現状価格でもまだ利益ではあります。中国のコストが90〜110ドルとの試算がありますので、オーストラリアには競争力はあるのですが、ここ10年の鉄鉱石バブル化における好調はもう戻らないと考えた方がいいでしょう。
豪ドルがリーマン・ショック後の上昇トレンドから下落に転じたのは2011年8月。この時何が起こっていたかというと、S&Pは歴史上初めてアメリカ長期国債の格付けを最高評価のトリプルAからダブルAプラスに引き下げ、ドル円相場が歴史的な円高75円台をつけ、金が歴史的高値1900ドルまで上り詰め、G7が緊急声明を出した月です。ここが豪ドルにとっても天井となりました。2011年11月から豪政策金利は利下げサイクルに入ります。それまでの政策金利は4.75%でしたが、2013年8月2.5%まで政策金利は断続的に引き下げられました。このレベルは豪州にとっても歴史的低金利。この金利引き下げに伴って豪ドル/米ドルも下落トレンドに入ってしまったのです。
しかし、2013年8月以降、政策金利は据え置かれたままです。ところが、その後も豪ドルは下落が続いています。何故でしょうか?
ひとつには、冒頭で取り上げたコモディティ価格の下落による貿易赤字の拡大が通貨安を招いていると思われること。そしてもうもうひとつは、政策金利の引き下げサイクルは止まったものの、RBA総裁のスティーブンス氏が繰り返し豪ドルの「通貨安誘導発言」を行っていることが大きいと思われます。
2013年5月、RBAは声明で、「為替レートは過去18カ月間に渡り、少しも変わらず歴史的な高水準にある」とのコメント。この時の豪ドルの水準から過去18か月のレンジは0.95~1.1ドル。つまり、下限である0.95ドルであっても豪ドルは高すぎる、と口先介入をし、豪ドル安を誘導したのです。スティーブンス総裁の「豪ドル通貨安誘導発言」は以降、繰り返され、前回2014年12月のRBAでも「豪ドルは1豪ドル=0.75ドルに近づくべき」「豪ドルにとって1豪ドル=0.85ドルより0.75ドルが望ましい」「豪ドルは現在の水準に対して1年で下落する可能性がかなり高い」などと、更なる下落誘導発言を行っています。つまり、市場関係者はこのスティーブンス氏が口にした「0.75ドル」をターゲットにしてしまっているのです。
加えて米国は2015年6~7月頃には利上げに踏み切るであろうと目されています。金利の引き上げによって米ドルが上昇すれば、相対的に豪ドルは下落すると思われます。
よって、豪ドルは0.75ドルをターゲットに緩やかに下落が続くと考えられます。足元では豪ドル/米ドルは戻り局面に入ったように見えますが、戻りを売る戦略を考えています。私はFX取引では40SMAを重要視しており、日足で40SMAまで戻ったところを売りたいと思っています。
ただし、これまでの金利の引き下げが住宅販売、住宅価格、住宅建築活動を押し上げており、住宅価格は2014年に9%もの上昇を見せました。建築も14年に大きく伸びたほか、小売売上高も好調。豪ドル安が中国や周辺のアジアの国への食品などの輸出増につながり、観光客や留学生の増加にも寄与しています。よって、市場関係者の間には豪州は年末には利上げに踏み切る可能性もあると予想する向きもあり、この思惑が豪ドルをサポートする可能性もあります。2014年の豪ドル下落があまりにも大きかったため、これまでのようなスピードでの下落は見込めないと思ってみておいた方がいいでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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