第99回　航空機の乗客によるトラブルが頻発【北京駐在員事務所から】

中国の空港や航空機内で、乗客の間で、あるいは乗客と航空会社の職員などとの間で様々なトラブルが発生し、出発便の遅延や引き返しなどが起きているとのニュースは、これまでも度々報じられています。
このところ、重大な事故につながりかねない事例が増えており、航空会社や空港関係者は頭を抱えているそうです。

先週9日（金）の深夜に、南部雲南省の昆明から北京に向かう中国東方航空の航空機が離陸に向けて地上を走行していた時に、乗客が非常口を開け、同機は離陸の中止を余儀なくされました。
非常口を開けた乗客と、この乗客が参加していたツアーのガイドの2名が警察に拘留され、またツアーの参加者25名が事情聴取を受けました。ガイドについては、ツアーへの参加者がマナーを遵守するよう監督義務が課せられているところ、これを履行できなかったことから、拘留対象となったものです。

同機は暴風雪の影響で出発が大幅に遅れ、また機体に付着した雪を溶かすために機内の空調を止めたことなどにより乗客の不満が募り、これが非常口の開放という暴挙につながったそうです。ただ、駐機中であればまだしも、今回は地上走行中でエンジンが稼働している状態ですから、大変な事故につながりかねない危険な状態であったと言えます。
航空機を頻繁に利用する乗客であれば、緊急時以外に非常口を開放することの危険性やそれがもたらす影響について想像することは難しくないように思われます。今回非常口を開けた乗客の知識、過去の搭乗歴などは不明ですが、航空機の利用が急速に広がる中国では、想定外の事態が起こり得るということを改めて認識させられます。

ちなみに、中国では航空機の遅延等をもたらした者については、「非文明的旅行者リスト」に最大18ヶ月間登録され、航空会社や旅行代理店は、リストに掲載された者による航空券の購入や旅行の申込を拒絶することが出来るとされています。
「ブラックリスト」が存在することにもびっくりですが、そのような対応を取らねばならないほど、問題が広がっており、かつ深刻になっていることが分かります。

12日（月）付の英字紙China Dailyでは、このような問題が頻発することの理由、背景について紙面を割いて論じていました。
一部の乗客が感情をコントロールできず、また非常識な行動を取ってしまうことについて、国民全員が真剣に考えるべきと述べています。「恥知らず」あるいは「分別が無い」と切り捨てることは簡単ながら、根本的な問題は彼らがあまりに自己中心的で、自身の利益のみのために行動してしまうことにあるとし、子供の頃から法律や規則を守ることの重要性と、忍耐が美徳であることの教育を徹底する必要があると結論付けています。

中国では、一人っ子政策の影響もあり、子供が両親や祖父母から溺愛され、過保護となる傾向があると言われています。
幼少の頃に忍耐を強いられる経験をすることが少ないため、成人となっても我慢ができず、感情を爆発させてしまうことにつながっているようです。
もちろん、人口が多く、社会の至るところで激烈な競争が繰り広げられていることも、ストレスの蓄積につながり、それが様々なトラブルの誘因となっています。
教育に根差す問題ということで、改善には時間がかかりそうですが、まずは親世代の意識改革から始める必要があります。関係者の努力に期待したく思います。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト