第43回 「特許」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

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第43回 「特許」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。2015年はかなり不安定な幕開けとなりました。昨年秋からの商品市況、特に原油価格の大幅下落は、資本市場の大きな攪乱要因となりつつあります。「コスト減により景気の下支えになる」との見方はあるものの、それ以上にリスクマネーを委縮させる影響が大きくなっているように感じています。また、フランスではテロも発生し、多くの犠牲者も出てしまいました。いかなる理由であれ、テロは許されるものではありませんが、これが一層の政情不安を喚起することとなれば、資本市場への影響も軽視することはできなくなるでしょう。市場が落ち着いてくるまでには、少し時間がかかるかもしれません。


さて、今回は「特許」をテーマに取り上げましょう。新年早々、非常に興味を引くニュースが飛び込んできました。世界最大手の自動車メーカーであるトヨタ自動車が「燃料電池車の関連特許約5,700件を無償提供する」というものです。トヨタ自動車の狙いは、特許を開放することで他社の参入障壁を解消し、競合他社やエネルギー会社を巻き込んで燃料電池車の普及を促そうというところにあるようです。そもそも特許は(相応の時間とコスト、アイデアを費やした)開発者を保護するものであり、特許出願から日本では20年(一部25年)を以てようやくその技術は解放されることになっています。それだけ守られているからこそ、企業は研究開発に時間と費用、人材を投入できるのです。とはいえ、これは競合他社が特許技術を避けて他の技術を指向することにもなるため、競合を征して世界標準を勝ち取る(つまり普及される)までにはかなりの時間を要することになります。


換言すれば、早々に特許を開放するということは普及へのハードルが下がる一方、技術アイデアの「タダ乗り」を容認することであり、開発費用の元を取るチャンスを失くしてしまうことにも成りかねません。さらには、タダ乗りされた競合にビジネスの旨味をまんまと持って行かれるリスクも急拡大します。燃料電池車開発は世界最先端を走る企業によるその特許開放は、如何に思い切ったものであるかが想像できるでしょう。トヨタ自動車はそういった懸念を十分覚悟したうえで、それでも普及を急ぐことのメリットは大きいという選択をしたのだと思われます。


このことは、特許についての従来の捉え方が変化しつつあることを示唆しているように思えます。従来は特許を出来る限り長期間存続させ、期限を迎えたものでも、その周辺特許の出願により実効的に技術を独占していくというのが通常でした。もちろん、現在もこの構造に変化はありませんが、様々な技術がかつてとは比べ物にならない速度で、しかもそれが世界規模で普及する時代を迎えたことで、従来とは異なる発想の企業戦略が出てきたのかもしれません。スマホやゲーム、レコードからCDや音楽配信への流れなどを見ると、確かに特許戦略もそういった時代に即して変化する必然性は高いと考えられます。


では、株式投資を考えるうえで、こういった変化からどういったことに留意すべきでしょうか。まず言えることは、特許の保有が切り札ではなくなっていくかもしれない、ということでしょう。これまでは競合他社とのビジネス面での相対優位性を特許の取得数などで推し量ることができました。しかし、競合する別の特許が解放され、雪崩式にそちらが普及してしまえば、形勢は一気に逆転してしまいます。逆に、劣勢を強いられていた企業にとっては乾坤一擲の勝負が挑めるということになるかもしれません。投資を考えるうえで、これは非常に重要な視点になると考えます。そして、それ以上に、特許を開放する企業は、おそらく「その遥か先まで技術開発が進んでいる」可能性が期待できるということです。多額のコストを懸けた技術を開放する以上、簡単にタダ乗り企業に追いつかれないだけの技術優位性を確保していると見るのはむしろ自然でしょう。特許そのものは徐々に切り札ではなくなっていくのかもしれませんが、開放できる特許を持つ企業は(その見掛け以上に)やはり強靭な技術開発力を有している、と見ることができます。特許を軸とした技術開発戦略は新たな局面を迎えたように思います。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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