第143回 スイスフランショックの教訓と今後の相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第143回 スイスフランショックの教訓と今後の相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

1月15日、SNB(スイス国民銀行、以下SNB)が1ユーロ=1.20スイス・フラン(以下フラン)に設定していたフラン相場の上限を撤廃することを突然発表したことで、ユーロ/スイスを始め、ドル/スイス、スイス/円などで、スイスフランが大暴騰。この衝撃を受けて株式市場も大きく下落、金相場が急騰するなど、マーケットはリスクを回避する方向に大きく動きましたが、次第に落ち着きを取り戻しつつあるようです。

そもそもの発端は欧州のソブリン危機。2009年10月のギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露からギリシャにデフォルト危機懸念が持ち上がり、この連鎖がスペインやポルトガルなど他のEU加盟国にまで波及するリスクが出てきたことから、ユーロが下落。欧州富裕層はじめ世界の投資家達は減価していくリスクの高いユーロを売って、地理的に近く、また金保有率も高く通貨の信認が高いフランを買うという行動に出ました。

欧州からどんどん資金が流れ込み、フランが急速に上昇したことで、SNBはフラン高を防衛するために、フランを売りユーロを買う介入に打って出ます。しかも1.20フラン以上には上昇しないようにフロアー(上限)を設定。このレベルを守るために「無制限介入」の実施を宣言しました。これが2011年9月。以降3年あまりの期間、ユーロ/スイスは1.20フランを超えて上昇することはありませんでした。SNBがバックについている!1.20に近づいてフランが上昇すれば介入してくれる!ということで、投資家らはユーロ/フランの1.20近辺に買い注文を置き、介入があって上昇するたびに利益を手にするというトレードを繰り返すようになります。SNBが介入して1.20のレベルは絶対に割らせないと宣言しているのだから、こんなに安全・安心なトレードはないはずでした。

ところが、欧州の景気が振るわずECB:欧州中央銀行はEU各国の国債購入を含めた量的緩和策を発表するのではないか、という思惑が強まってきていることや、1月25日のギリシャ総選挙で急進左派連合が勝利すればギリシャがEUを離脱する可能性が出てきていることなどを背景に、ユーロ安が足元で加速してきたことで、SNBはスイス高に歯止めをかけるのが困難となり、とうとう絶対に割らせないと設定してきた1.20のフロアーを撤廃、白旗を上げたのです。

SNBの突然の発表にユーロ/スイスフランは1.20近辺から、一時0.85まで下落しました。ドル/円相場に置き換れば1ドル=120円から85円近くまで下落したようなものです。わずか20分くらいの時間に、です。

こうした金融市場の混乱が起きた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

ある市場が急落、急騰した場合、それによって損害を被るところがどの程度あるのかを把握することが求められます。ヘッジファンド、金融機関、個人投資家、また原油安など資源価格が下落した場合は産油国など国家の損失なども重要なポイントとなってきます。相場の急変で、市場参加者に大きな損失が出たであろうことが想定できる場合、その損失を穴埋めするために利益が出ている資産を売却する動きが出るため、こうしたリスクを先読みした向きはポジションが偏っているであろう、利益が見込まれているだろう資産の反対売買を仕掛けたりします。現実問題として資産の手仕舞いに動かざるを得ない向きによる資産の下落、今後の問題の波及を先読みした投機筋による仕掛け売り、そして相場の急変でストップロスオーダーが次々にヒットしたことで更なる下落が誘引され、市場は混乱するのです。

しかし今回の場合、15日当日、16日のマーケットを見ていると、意外に株式市場、他通貨市場は落ち着きを取り戻すのが早かったように思います。これは、スイスフラン急騰での損失の連鎖がもたらすショックよりも、いよいよ欧州が国債購入も視野に入れた大規模な量的緩和政策に踏み切るだろうという思惑の方が強いことの表れだと思われます。今回の1件で欧州の株式市場は下落していません。日本や米国の株式市場は比較的大きな下落に見舞われましたが、両市場は買いで利益を上げていたポジションが大きかったためでしょう。こういうショックが起こった場合でも、その先の経済イベントの重要性や注目度が高ければ、そちらへの期待に支えられて、結果的には安値を買うチャンスになることもあります。個人的には、すでにマーケットは22日のECB理事会での大規模量的緩和期待にテーマをシフトさせており、金曜に向けては下がった株やドル/円などの相場は買い戻され上昇していく可能性が高いと思っています。

また、こういうショック時には留意しておきたいこととして、丸1日経過するまでショックを吸収しきれないことが多く、値動きが落ち着いてきた、反発してきた、値ごろ的に安くなりすぎたからといって逆張りで入らないことです。今回の場合は欧州時間から始まったショックでしたが、NY時間、アジア、東京時間、そして再び欧州時間と世界の市場が一巡するまでは決して下げ止まったかどうかはわかりません。今回もNY時間で下げ止まり反転したかに見えましたが、翌日の東京時間に株式市場、ドル/円相場ともに一段安となりました。まずはマーケットが世界の市場を1周して、あらゆるポジションの整理が出きってしまうのを確認することが大切です。決して、値ごろで逆張りで飛び込まないようにしてくださいね。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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