第100回 一人っ子政策が緩和されるも急激な変化は起こらず【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第100回 一人っ子政策が緩和されるも急激な変化は起こらず【北京駐在員事務所から】

1979年に始まった中国の一人っ子政策(計画生育政策)は、30年以上に渡り人為的なコントロールを続けた結果、人口の増加に歯止めをかけ、食糧問題の克服など成果を挙げました。一方で、男女比のアンバランス(男性が女性よりも多く結婚難に)や過保護(甘やかし)などの弊害も生じています。

そして、さらに深刻な問題が、この政策によりもたらされた(人工的な)少子高齢化です。
現在、中国の人口は世界最多の13億人ですが、早ければ2020年頃に減少に転じ、インドが人口で世界一になると予測されています。
加えて、生産年齢人口(中国では15歳から59歳)の減少がより喫緊の課題となっています。
総人口よりも早く2011年をピークに減少に転じており、今後の経済成長の足を引っ張りかねないと懸念されています。


少子高齢化の進行を食い止めたい政府は、近年、徐々に一人っ子政策を緩和しており、昨年からはほとんどの地域で、これまで、「両親がともに一人っ子の場合に第二子を設けることを認める」としていたところ、「両親のいずれかが一人っ子の場合」に改めています。
この規制緩和により、少なくとも1,100万組の夫婦が、新たに第二子を持つことが認められたそうですが、昨年1年間に、政府に届出を行い、第二子を設けた夫婦は1割にも満たない100万組弱にとどまりました。


2012年時点でのアンケート調査では、「規制が緩和されれば第二子を設けたい」と回答した夫婦が全体の6割にも達し、また規制緩和直前の予想では、新たなベビーブームが起こり、5~6年の間に1,300万人程度の出生数の増加が期待できるとされていたのですが、一年目の実績はこれらを下回るものとなりました。


一人っ子政策を所管する政府の国家衛生・計画生育委員会の報道官は、記者会見で「現在処理中の届出もあり、この規制緩和により出生数は毎年200万人程度増加すると予想している。政府は今後も人口動態を注意深く監視し、関連の政策を適切に変更、調整する」と述べています。
あわせて、出生数の増加に対応し得る医療と教育の体制を整備するよう努めるとしています。

出生数の増加が予想を下回ったことの最大の理由は、急激な都市化の進行と言われています。
住宅問題や教育費の増加が、多くの夫婦に第二子を設けることを躊躇させています。
日本でも深刻化している少子化問題と同様の構図です。


人口問題を研究する北京大学の教授は、更なる規制緩和が必要と指摘しており、政府の報道官も、特に都市部住民の意識を変えるような政策変更の必要性を認めています。
2030年代前半には、60歳以上の人口が4億人に達し、全人口の25%を占めると試算されています。ちなみに現在の割合は14%です。日本では2013年に65歳以上の高齢者が全人口に占める割合が25%を超えていますが、中国の高齢化は日本を上回るスピードで進んでいるとされ、「豊かになる前に老いる」が現実の問題となりつつあります。「子が老親の世話をすることが当然」とされる社会ですので、子世代の負担や高齢者の生活の質の維持等、将来問題が噴出することが懸念されます。


人口問題(少子高齢化)は、貧富の差と並び、中国の将来を左右する重要な問題です。
中国の場合、少子高齢化の進行は政策によりもたらされた部分が大きいのですが、これの逆、すなわち政策で少子高齢化に歯止めあるいはブレーキをかけることは、日本の例を見ても明らかなように極めて困難です。中国が成長の持続と社会の安定を実現できるかどうか、政府の手腕が問われています。


最後になりましたが、一昨年2月に開始しました本コラムも、100回を迎えることができました。今後も、中国の現状を理解することに資すると思われるテーマ、話題を発掘し、分かりやすくお伝えしていきたいと考えております。引続きよろしくお願いいたします。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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