第44回 「木材」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第44回 「木材」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週はISIS(イスラム国)において人質となっていた邦人が殺害されるという痛ましいニュースがありました。事件は最悪の結果となってしまいましたが、同時にテロが身近にあることを痛感させられた事件となりました。筆者は、いかなる主義・主張・思想においても、テロは断じて許されるものではないと強く思っており、こういった行為には憤りを隠せません。一刻も早く、こういったテロが駆逐されることを願って止みません。


さて、今回は「木材」をテーマに取り上げてみたいと思います。実はこのテーマは以前から書こう書こうと思っていたテーマでした。丁度先週、日経新聞でも夕刊で取り上げられたこともあり、このタイミングでこのテーマを深堀りしてみることとしてみましょう。ちなみに新聞の報道は、円安によって国内産木材は競争力が回復しつつあり、いくつかのハウスメーカーでは国内材の資料比率を(これまでの輸入材中心から)国内材へシフトさせつつある、といった内容でした。とはいえ、記事では国内材価格がようやく輸入材と並んできたという段階であり、ハウスメーカーにとっては国内材への切り替えを行ってもまだコストダウンとなる程のインパクトはないと読み取ることができます。実際、国内材シフトは消費者の安心感や短納期などに訴求したものにとどまっており、変化の兆しはあるものの、利益貢献などコスト面での実利までには至っていないというのが実態のようです。そう考えれば、株式投資という観点ではあまり目を見張るものではないように思えます。ですが、ここではもう一歩、思考を進めてみましょう。そこに投資のヒントがあるかもしれません。


そもそも、日本の林業は高度成長期以降、最も市場が縮小した産業の一つです。林業従事者数は過去50年で実に75%も減少し、その中でも65才以上の高齢就業者の割合は20%に迫るという状況にあります。全国木材生産額も近年は2,000億円程度まで低下しています(過去30年で約80%減)。これは、主用途である住宅において、鉄筋コンクリートといった新工法の浸透、マンションなどの集合住宅へのシフト、さらには人口減少による需要後退などが影響したためです。これらに長年の円高や人件費増による対輸入材でのコスト競争力低下が加わり、産業としては強烈な逆風を受けてきたのです。さらにその副次的な悪影響として、高度成長期に植林した人工林(当時は空前の住宅ブームでした)も現在は市場価値を失い、手入れもなされずにいるようです(これは花粉症の遠因にもなっています)。放置された人工林は生物多様性が乏しいため、雨滴による土壌侵食を受けやすく、土砂災害の原因ともなっているのです。実は国内材の回復は、そのもののビジネスのみならず、こういった人工林の整備に経済合理性を与える可能性があるのです。


当然、そうなれば、地方にお金が回り始めるため、地方活性化や「町おこし」に繋がります。森林の資産価値が上昇してくれば、地方においても資産効果が出るきっかけとなるでしょう。現在の資産効果は都心部に限定されており、アベノミクスが期待するトリクルダウンも都会から地方へという流れが想定されています。しかし、地方の森林でも資産効果が出てくれば、トリクルダウンが進展するスピードは一気に加速する可能性があります。現時点では、まだ資産効果を論じることのできる段階には至っておらず、これは夢物語の域を出ていません。しかし、これまであり得ないと思われていたことが現実になった例は数多あります(例えば、半年前に原油価格が1バレル40ドル台になると誰が予想したでしょうか)。一笑に付すのは簡単ですが、一つのシナリオとして頭の隅に置いてみるのも面白いかもしれません。


実は、夢物語にはまだ先があります。東南アジアや欧州、米国などでは、自然保護の観点から森林伐採がどんどん規制される傾向にあります。一方、中国などでは経済発展を追い風に木材需要は拡大しており、輸入材が急増しています。概して、世界的に需給はタイト化する方向にあるのです。価格次第では日本から輸出というビジネス機会も生まれてくるかもしれません。そうすると、日本林業の復活シナリオが見えてきます。上場している林業専業企業は現在ありませんが、この分野に布石を持つ企業は大きく変化する可能性が出てくるでしょう。かなり楽観的なシナリオですが、一つの産業が復活するかと思うと期待も膨らみます。こういった復活劇に、投資という形で貢献できれば、それもまた投資家冥利に尽きるのではないでしょうか。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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