マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル高が止まりません。ドル/円相場だけを見ていると116円~118円台での狭い値幅でもみ合っており、ドル高という印象がないのですが、対ユーロ、豪ドル、NZドルなど円以外の通貨と米ドルの関係を見れば一目瞭然、米ドル高に歯止めがかからぬ状態となっています。その背景には、米国が今年中にもいよいよ金利の引き上げに踏み切るであろうという予想がコンセンサスとなっていることが挙げられますが、その割には米国債の利回りは一向に上昇してきません。日米金利差の拡大が見られないことも、昨今のドル/円相場の鈍さの一因という指摘がありますね。米国の金利先高観という積極的な米ドル買いによるドル高というよりは、他国通貨の「通貨安競争」が熾烈を極めていることが、現在の米ドル高の要因と考えられます。
2015年、年が明けてまだ1か月しか経過していませんが、すでに以下の国々が利下げを実施しました。
カナダ・インド・ルーマニア・エジプト・ペルー・トルコ・パキスタン...。デンマークは、1月になんと3回目も利下げを実施しています。シンガポールも金融緩和通貨安競争に参戦し、先週末はルーブル安にあえぐロシアまで利下げを決めました。
また昨年2014年は利上げが目されていたイギリスも、前回の金融政策委員会の議事録では
これまでの利上げ派だった理事2名が金利据え置き派に回ったことで、多数決は9対0に。つまり利上げ推進派がゼロになってしまいました。これでイギリスの利上げ期待は著しく後退しています。またニュージーランドは先般の金融政策決定会合で、政策金利の引き締めバイアスを後退させています。昨年までの「利上げ示唆」から「利上げも利下げも柔軟に」、としたことで、次は利下げする可能性もあるとの警戒強まってNZドルも売られる展開。
つまり、米国以外がこぞって通貨安政策を採っており、2015年に入ってこの各国の中央銀行のスタンスがより鮮明になってきたのです。
しかし、米国は果たして米ドル高をどのレベルまで許容できるでしょうか。先週の米国企業決算はドル高の影響を受けた企業の減益や見通しの下方修正ラッシュとなり、米国株が神経質に乱高下、軟調な展開を強いられています。売上高の約75%を海外に依存するマイクロソフトはドル高の影響で第2四半期(10-12月)決算が減益。航空機エンジン・機械大手ユナイテッド・テクノロジーズもドル高で2015年の利益、売上高見通しをともに下方修正、P&Gもドル高の影響で通期の純売上高が3-4%減少するとの見通しを示しています。建設機械大手のキャタピラーは全世界に建設機械を販売していることから世界経済のバロメータともいわれていますが、10~12月期純利益が前年同期比24.6%減となったことが明らかとなり、ダグラス・ オーバーヘルマンCEOは原油安とドル高圧力のダブルパンチを受けたことで「間違いなく2015年は困難な年になる」との見解を示し「コスト管理と再編で営業の改善を図る」と発言しています。昨今のドル高は明らかに米国の企業収益に打撃となって表れていることが確認されました。こうした決算を受けて米株は高値圏で乱高下、大調整の前触れと警戒する向きも出てきています。同時に「このような状況で米国は利上げに踏み切ることができるのか?」という懸念が強まってきています。現在のところ早くて年央、6月には利上げがあるというのが市場のコンセンサスですが、もし、遅れれば現在のドル高の猛烈な巻き返しが起こり、その波に飲まれてドル/円相場も相応の調整を強いられるかもしれません。
しかしながら、米国発のサブプライム、リーマンショック後、米国が先陣切って量的緩和政策を採ってきたのです。それが功を奏し、いよいよ利上げできるところまで経済が回復してきたところで、他国が米国の採用してきた量的緩和政策に追随し通貨安政策に踏み切ったところで、文句が言える立場にはないですね。米国自身が行ってきた金融緩和政策を他国が取り入れたからと言って、米国はそれを批判できるでしょうか?とはいえ、企業業績の悪化で米株が大崩れとなれば、どこかでそれを牽制することもあるかもしれないというのが、リスクとして懸念され始めました。
「米国は果たして現在のドル高をどこまで容認するのか?!」
これが2015年の大きな相場のテーマとなっていくのかもしれません。米国FOMCではFRBが利上げ時期をどのように模索しているか、また要人発言にも注意が必要です。米ドル高へのけん制が米企業側から出てくれば、一時的に米ドル買いの巻き戻しに繋がるリスクとなりますが、基本的にはFRBは米ドル高を相当期間容認するものと思いますので、リスクで米ドルが下がったところは買い直されるのではないでしょうか。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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