第146回 米金利か貿易収支か、今後のドル/円のテーマ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第146回 米金利か貿易収支か、今後のドル/円のテーマ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

1月の米雇用統計の結果を受けて、ドル/円相場はこれまで上値抵抗となっていた118円台をあっさりと抜けて119円台まで一気に駆け上がりました。1月の雇用の伸びが市場予想を上回ったのは過去10年でたった1回しかなく、今回も上振れ期待は大きくなかったのですが、1月分の雇用者数は事前コンセンサスを若干上回る内容となり、加えて昨年2014年の11-12月分の数字が大きく上方修正されたことが驚きとなりました。11月は353千人から423千人に、12月も252千人から329千人に、ほぼ7万人ずつの上方修正で、2か月計では15万人近くにも上ります。さらに、注目の賃金上昇率においても、時間当たり賃金は0.12ドル増と、12月の0.05ドル減から上昇に転じ、前年比では2.2%増と8月以来の大幅な伸びを記録し好感されました。このところは昨年の高値から半値以下にまで下落した原油価格の影響で、アメリカの年内の利上げは難しいのではないかという声も広がっていましたが、今回の1月の雇用統計の結果を受けて、早ければ6月にも利上げが実施されるだろうという早期利上げ観測が再び強まっています。これが、ドル/円相場において強い買い材料となりました。

しかし、昨年2014年12月8日につけたドル/円の高値121.83円を超えてくるまでは、次なる円安ドル高のステージに入ったとは言い難く、結局のところまだレンジ相場の中での推移です。週明け月曜9日のドル/円相場は118円台へとジリジリ下落する展開で、上昇は続きませんでした。

今後、ドル/円相場がしっかりとした上昇トレンドを継続できるかどうかは、まず、米国債利回りの上昇基調の継続が確認できるか否かに注目です。
米国債利回りはブルームバーグなどでその推移を確認できますので、まめにチェックしています。

米国債券利回り2年
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG2YR%3AIND
米国債券利回り10年
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND
また気がかりなのが、日本の貿易赤字の縮小です。原油安によって輸入コストが減少しているのです。財務省が発表した昨年2014年12月に発表した貿易統計では2014年を通じた年間の貿易赤字は▲12兆7813億円を記録し、4年連続の貿易赤字、統計を取り始めて以来最大の赤字額を計上しました。2011年の原発稼働停止から日本は海外からエネルギーを輸入しなくてはならなくなりました。エネルギーを買うために為替市場で生じるドル買い(エネルギーはドルで買うため)が円安ドル高の大きな材料となったのです。ドル/円相場が貿易黒字による円高の構造であった時代は2011年に終焉し、輸入コストが膨らみ貿易赤字国となったことが、ドル/円相場を円安に向かわせる構造へ転換させたのです。

しかし、2014年通年では過去最高の貿易赤字となりましたが、2014年夏場以降、原油価格が急落し、昨年の高値100ドル台からは半値以下に下落しています。昨年2014年の後半から足元にかけての最近時点の貿易収支月次統計では、輸入額の減少が確認できますが、これは国際商品市況における原油価格の大幅な下落に起因する部分が大きいとみられています。また、円安であることが効いてきたのか輸出額も伸びてきたことで、貿易収支の赤字幅の減少が生じはじめています。特に12月統計では、価格面と数量面の両方で輸出の増加が生じており、エコノミストの間では、現状の原油価格と為替相場が続けば早ければ数か月後には貿易収支が黒字転換するという見通しも出始めました。貿易収支の黒字転換は明らかに円高要因となる材料です。これを以て、2015年のドル/円相場は円高方向に動くと予想する専門家も出てきました。昨年は、米国の利上げ期待に加え、貿易赤字の拡大がドル/円相場においてはWの上昇の材料でしたが、今年はドル高要因である米国の利上げ期待に対し、円高要因となり得る貿易赤字の縮小(あるいは黒字転換)が拮抗し、ドル/円相場を動きにくくしてしまうかもしれません。どちらの材料に軍配が上がるのかは予想は難しいですね。原油価格が上昇すれば、再び赤字拡大となりドル/円上昇の要因となりますが、原油の需給ギャップは拡大する一方で、需給からは原油価格が持ち直すとは思えません。しかし、原油は政治銘柄。有事でも起これば急反騰するリスクもあります。また、米国の利上げ時期は米国景気と原油価格を睨んで、ということになりますが、これも正確に予想することは大変困難です。

昨年2014年12月8日につけたドル/円の高値121.83円を上に抜けてドル高トレンドに入るのか、昨年12月と今年1月の安値サポートとなった115.80円を下に抜けて円高トレンドに入ってしまうのかがテクニカル的に重要なポイントとなりますが、原油安はこの先のドル/円相場にも大きな影響をもたらすかもしれません。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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