第45回 「インバウンド消費」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第45回 「インバウンド消費」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。2月も折り返しを越え、徐々に年度末が意識される時期となってきました。企業業績も第3四半期決算が一巡したことで、目線はそろそろ来期に向き始めたように思います。ただ、株式相場はピリッとしません。日経平均株価は昨秋の日銀バズーカ以降、およそ16,500円~18,000円のボックス圏での推移となっており、徐々に停滞感が増してきているのが実情です。この背景には、消費増税延期となってもセンチメントに大きな変化の見られない国内景気に加え、ギリシャを筆頭に不透明感を増す欧州経済、成長率鈍化が鮮明となってきた中国、原油など商品市況の下落、日本人殺害の凶行にも及んだダーイッシュ(自称イスラム国)の台頭などがあるように思えます。こういった諸々の悪材料の灰汁抜けには、まだしばらく時間を要するように感じています。


さて、今回取り上げるテーマは「インバウンド消費」です。このコラムで取り上げるには少々タイミングが早いとは思いましたが、相場の柱があまり見当たらない現状を考え、(唯一?)気を吐くこのテーマについて言及してみたいと思います。インバウンド消費という言葉は、2014年の日経MJヒット商品番付で横綱にランクされたほどですので、既にご存知の方も多いでしょう。ここでは一般的に、訪日外国人旅行者による国内消費という定義づけをしたいと思います。実は、円安の影響もあり、訪日外国人旅行者はここもと急激に増加してきています。2011年には620万人強であった訪日外国人旅行者数は、2013年に初めて1,000万人を越え、2014年はさらに増加して1,300万人を越えています。さらに、2014年に訪日外国人旅行者が使ったお金は実に2兆300億円。非常に大きな市場となっていることがわかります。これに乗じ、政府は2020年までに訪日外国人旅行者数を2,000万人まで増やしたいと計画しています。市場はさらなる拡大が見込まれることを考えると、相場の根強いテーマとなっていることにも合点がいきます。


なお、現在のところ、このテーマでの物色対象は、ホテルや特産品、百貨店、家電量販店などが中心です。ただ、最近はややこじつけ的にインバウンド消費関連とされる銘柄も散見されてきました。そこで原点に一旦立ち返り、インバウンド消費というものを再度整理し、本質的な視点をみなさんと共有してみたいと思います。重要なのは、そもそも旅行者が使うお金の使い途はおそらく次の4つに集約されるということ、だと考えます。具体的には、移動交通費、宿泊費、食費、そして遊興費です。そして、この順でお金を使う対象や金額は(個人の好み、価値観、旅行目的などによって)一概に論じることができない傾向にあります。みなさんが外国に旅行する際も、そうではありませんか? 交通費や宿泊費は不可欠ですが、旅行者間でそれほど差が出る消費ではありません(もちろん、ファーストクラスや豪華ホテルの場合は差が明らかですが(笑))。しかし、食費や遊興費はこだわりによって個人で使い方が千差万別なはずです。とすれば、投資を考えるうえでは、交通費や宿泊費関連ではかなり固めの選択であり、食費や遊興費関連はよりリスク指向の選択ということができるかもしれません。意識しておかなければならないのは、インバウンド消費として関連銘柄を十把一絡げに捉えるのではなく、お金の使途によってリスクや期待値をきちんと分けて考えるべき、ということです。


さらに抜本的には、歴史的な視点が欠かせません。かつて日本がバブルに浮かれているとき、欧米のブランドショップではジャパンマネーを軸にまさに「インバウンド消費」に沸き立ちました。当時、店員は必死で日本語を覚えたという逸話も残っています。実はこれと同様のことが、現代の日本で繰り広げられているのかもしれません。では、日本でバブルが崩壊して以降、欧米でインバウンド消費は廃れてしまったか、といえば、答えは否、です。これは欧米の確固たるアイデンティティや文化が、そういった経済情勢とは関係なく、世界中の旅行者を魅惑して離さないため、だと考えます。では、今はインバウンド消費需要で潤う日本ですが、これが果たして円安や新興国の景気拡大などに左右されず、欧米と同様に世界の旅行者を引き付けることができるでしょうか。そして、インバウンド消費が恒常的に経済貢献できる消費項目になれるでしょうか。これはクールジャパンの浸透度にも依るのでしょうが、この真価を見極める必要があるはずです。これが本物、ということになれば、おそらく投資対象も現在インバウンド消費関連とされているものを大きく越えてくるものと想像しています。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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