マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
膠着状態に入ってしまったドル/円相場。2015年は米金利上昇の思惑がドル高を招くと予想されていますが、何故上値が重くなっているのでしょうか。
① 貿易赤字の縮小
1月の貿易統計で、貿易収支の赤字幅が前年同月より6割近く縮小となったことが分かりました。赤字は31カ月連続なのですが、赤字額は前年同月の2兆7,950億円よりも57.9%も縮小していたのです。
その背景には、円安の進展によって輸出が好調であったことが挙げられます。輸出企業の外貨収益はいずれ日本国内の円に戻されることになりますから、輸出増は円買い要因となるため、円の上値を抑えることになります。
加えて、昨年夏からの原油価格下落。原油安は日本の輸入コストを低下させます。振り返ってみれば、円安が大きく進んだのは3.11以降、日本の原発停止からエネルギ―を海外からの輸入に依存する構造となった時からで、アベノミクスや日銀の量的緩和よりも、この部分が効いているとの指摘もあります。市場関係者の間ではこの原油安が続けば、年内の黒字転化の可能性を指摘する声も出てきています。貿易赤字による円安圧力は低下しているのです。
② 訪日外国人急増
2014年1年間に日本を訪れた外国人は1,341万人と過去最高を記録。訪日外国人旅行消費の総額も、過去最高の2兆305億円で前年比43.3%増にも上ります。加えて昨年の外国人の日本不動産取得額は9,777億円と、前年比で3倍に増えたことも解っています。
となると、外国から日本に流入してくる外貨総計が2014年1年で3兆円を超える計算です。これも円高圧力ですね。
③ 4月統一地方選挙
市場関係者の間では4月の統一地方選を控えての配慮だとする見方が多いようです。円安は海外へモノを輸出するグローバル企業にとっては追い風ですが、そうでない企業にとっては輸入コストが上がり業績を圧迫することに。円安は地方経済にとって必ずしもプラスではないのです。選挙に向けては過度な円安進行はむしろマイナスです。円安抑制に動くということではありませんが、この選挙に向けては円安となるような政策が出ることはないと思われます。
④ TPP交渉が佳境へ
米国企業の今決算発表では、世界で事業を展開する米企業決算がドル高の影響で圧迫される構図が鮮明になってきています。自動車産業などからドル高の景気への影響を懸念する声が出てきており、1月のFOMC議事録でも「ドル相場の上昇は、米国の純輸出にとって持続的な抑制要因になる見通しで、数人の出席者から、ドル高がさらに進む恐れがあるとの指摘があった」との文言が確認されるなど、米国内でも行き過ぎたドル高への警戒が強まってきています。またTPP交渉が佳境を迎えてきていることもあり、日米双方で政治的に「円安が歓迎されない」状況となっています。
⑤ HIA2(本国投資法2)
2月4日、米オバマ大統領が発表した「本国投資法2」。本国投資法とは2005年ブッシュ政権のときに海外に子会社を持つ多国籍企業が本国の親会社に利益を送金する場合、1年に限って税率を5.25%に引き下げたものです。当時海外での留保利益は1兆ドルと推定されていましたが、3,000億ドルが米国に還流したとされています。現在の海外留保利益は2兆7,000億ドルとされており、前回の規模よりもかなり大きいものです。今回のオバマ提案では①連邦法人税の実効税率を現行35%から28%へ引き下げる②海外で留保された利益の本国送金には14%課税③1年限りの時限立法でなく恒久措置というもので、そのインパクトは大きく、これが施行されれば、相当のレパトリ(ドルへの資金還流)が起こると思われます。ただし、それはこの制度が施行されてから。現段階では、このHIA2施行を待って一時的に米企業による米ドル買いが例年より減少し、滞留する可能性が指摘されています。これもドル買い圧力の低下に繋がっているものと考えられます。
以上の理由で、現在は円安のエンジンが抑制されているものと思われます。しかしながら今年は米国が利上げに踏み切るとの見方からドル高が継続しているため、大きく円高に動くことは考えにくく、よってドル/円相場が膠着してしまっているのでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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