第46回 「北陸新幹線」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第46回 「北陸新幹線」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。早くも3月入りとなりました。寒い日々も徐々に減少し、心持ち暖かい日が増えてきたように思います。年度末の忙しなさもあり(笑)、春はもうすぐそこまで来ているのだと感じています。春到来に併せ、株式市場も「水温む」状況となってきました。日経平均株価は実に15年ぶりの高値を更新するなど、久々に力強い展開となっています。前回、このコラムでは「原油安やギリシャ問題などの懸念から停滞感あり」と書いたのですが、実際にはまず足元の好材料を織り込む相場となっているようです。


さて、今回取り上げるテーマは「北陸新幹線」です。今月14日に長野-金沢間が開業する予定で、東京から金沢までが約2時間半で繋がることになります。首都圏から北陸へのアクセスは、これまで鉄道在来線か飛行機という選択肢しか事実上なかったことから、その利便性は飛躍的に増すものと期待されています。金沢など人気の高い観光スポットも北陸には多く、新幹線開通で旅行客の増加も見込まれることでしょう。首都圏と北陸圏で、ヒト、モノ、カネ、の動きはこれを機に大きく変化し、投資の好機と捉える向きも少なくないのではないでしょうか。ただし、北陸新幹線開通で既に関連銘柄は様々なメディアで語られています。当然ながら、このコラムで同じ内容を取り上げても面白みはありません。そこで、もう少し捻った見方をご紹介したいと思います。


いきなり厳しい見方で恐縮なのですが、こういった大規模交通網の整備においてはまず経済の「ストロー効果」を抜きに考えることはできません。これは、利便性の改善によって都市圏から地方への旅行者増、消費拡大が期待される一方、それ以上に地方から都市圏へ労働力や購買力が流出してしまうという現象を指します。つまり、地方の活力を都市圏がストローで吸い取ってしまうという現象です。例えば、「気軽に訪れることができる」ということは「日帰りもできる」ということでもあります。すると、結果として宿泊費や食費などは抑制され、消費額の旅行客(出張客)単価は低下してしまうリスクがあります。人口バランスを考えれば、客単価低下が深刻なのは地方となるはずです。さらに、地方の若者は仕事や学校を求めて都市部へ出るケースも増す可能性があるでしょう。便利になるということは、地方独自の味わいを消し、全国画一的な店舗やサービスが進出しやすい環境になる、ということでもあるのです。実際、こういったストロー効果によって、疲弊し、活力を失ってしまった地方都市の例は枚挙に暇がありません。交通網整備で地方は便利になるのですが、それが東京の一極集中をむしろ招いくという皮肉な結果になっているのです。果たして、小京都・金沢を含む北陸各都市がそうなってしまうのかどうか、逆に首都圏から活力を吸い取るこができるのかどうか、はまさに今後の自治体の腕の見せ所と言えるでしょう。


しかし、このことを言い換えれば、「吸い取る」側には大きなメリットが期待できる、ということです。もちろん、経済はゼロサムではないため、「吸い取られた」としても、それ以上の市場活性化があればプラスの影響を残すことはできます。とはいえ、効率のよい投資を考えれば、「吸い取る」側に立つ企業を選択するのに越したことはありません。過去の例のように地方が衰退するのであれば、資本力を持つ首都圏の大企業に投資チャンスが広がります。逆に、その個性を武器に地方の企業が首都圏の需要を「吸い取る」ことができれば、大きな飛躍が期待できるでしょう。銘柄の見極めは非常に重要となってきます。


また、北陸はこれまで、実は関西圏・中京圏からのアクセスが便利でした。これが新幹線開通により、一気に首都圏からのアクセスの利便性が増すことになります。このことは、北陸経済圏に関して、関西・中京圏から首都圏へのストロー効果が生じかねないことを示唆しています。このように考えると、新幹線開通の影響はかなり奥深いものが予想されます。一般的に、新幹線開通は目出度いことであり、祝賀ムードに包まれるものではあるのですが、一歩踏み込めばそれほど単純なものではないことがわかっていただけるでしょう。せっかくの新幹線開通にもかかわらずシビアな見方のご紹介となってしまいましたが、投資にはドライな視線が不可欠であるのも確かです。物事には必ず、裏と表があることを忘れずに。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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