第105回 中国人海外旅行客の存在感が一段と高まる【北京駐在員事務所から】

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第105回 中国人海外旅行客の存在感が一段と高まる【北京駐在員事務所から】

テレビニュースなどでも盛んに報じられていましたが、今年も春節(旧正月)の連休中に中国、台湾などから多くの旅行客が来日し、家電製品、化粧品など大量の商品を購入しました。
炊飯器の人気は以前からのものでしたが、今年は突如として温水洗浄便座が注目を浴び、家電量販店などでは売り切れ続出となったようです。関連業界は特需に笑顔と言うところかもしれませんが、短期間に集中する需要に対応するための商品供給あるいは人員態勢の整備は容易でなく、いろいろ苦労もあったものと思われます。


日本は人気の旅行先の一つですが、連休中に中国人旅行客は世界の各地でその存在を見せ付けることとなりました。伝統的に、春節は多くの人が帰省に充て、故郷で親族や友人とともに過ごすとされてきましたが、近年、富裕層を中心に、海外旅行に出かける人が急増しています。
春節連休中の海外旅行者は、2013年が400万人、2014年が473万人で、今年は推計で519万人、前年比9.7%増となりました。行先別の割合は、韓国15.6%、タイ13.9%、日本8.7%、オーストラリア4.4%などとなっています。


日本以外の訪問先でも、中国人旅行客は他の国からの旅行客と比較してショッピングへの支出額が多く、百貨店などにとっては上客となっています。英系銀行HSBCの推計によると、フランスのパリを訪れる中国人旅行客は、現地での支出のうち8割をショッピングに充てているそうです。中国国内では、習近平政権が推し進める汚職撲滅運動の影響で高級ブランド品の売上が減少しているのですが、海外旅行客がそれを補う形となっています。フランスでは、伝統的にほとんどの商店が日曜日を休日としていますが、増加する中国人客の需要が背中を押す形で、政府が日曜営業の是非について議論を始めるとも伝えられています。


パリの老舗百貨店プランタンのCEO(最高経営責任者)は、1970年代は米国、80年代と90年代は日本、そして2000年代前半はロシアからの旅行客が多かったが、最近の6~7年は外国人客の中で中国人が最多となっていると話しています。パリのプランタン本店では、外国人客は全体の2割程度ながら、売上への寄与度は4割に達するそうで、さらにその半分を中国人が占めています。凄まじい購買力と言えます。


英国でも中国人旅行客の存在が大きくなっており、調査会社によると、昨年、英国での免税販売額のうち25%が中国人によるものでした。今年の春節期間中も、小売業者は中国人客の獲得に力を入れ、商品の充実や免税対応に加え、中国人客の嗜好への対応やデビットカード「銀聯カード」の取扱などサービスに努めています。ロンドンの老舗百貨店ハロッズは、このほど本店内に中華料理店を開設し、北京ダックなどの料理を提供しています。中国人客は海外でも中華料理を好むことが広く知られており、ハロッズの中国人客重視の姿勢がうかがえます。


現在の中国での海外旅行人気あるいは高級自動車の人気は、まさに日本のバブル期を彷彿とさせるものですが、中国は人口が多く、また地域により発展の度合に差があるため貧富の差も大きいため、今はまだ海外旅行に手が届かない人々も、今後長期間に渡り、新たな顧客となっていくものと見られています。世界の旅行業界あるいは小売等関連業界で、中国人客の獲得競争が長く続くことが予想されます。日本が現在有している強みを維持し、また新たな魅力を打ち出してアピールすることが出来るか、関係者の工夫と努力が求められるところです。


ここでもまた、中国の躍進ぶりに昔の日本が重なって見えることとなりました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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