マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
工業生産高の伸び率低下や、生産者物価の下落など、中国ではこのところ経済成長の減速を示す指標の発表が相次いでいます。
不動産市場の低迷と、原油価格の下落が主な要因と言われていますが、習近平政権が強調する「新常態」の通り、一過性の減速ではなく、中国の経済構造が変化したと見るべきでしょう。
日本でも同じですが、景気の減速で最初に影響を受けるのが新卒者の雇用です。政府の人力資源社会保障部(日本の厚生労働省に相当します)は、今年2015年の新規雇用創出を1,000万人程度と見込んでいます。2010年の1,168万人から昨年2014年の1,322万人まで、この5年間は毎年増加を続けていたのですが、今年は一転24%もの大幅減になります。
一方、今年2015年の大学卒業生数は過去最多の749万人となる見込みで、これに高卒者などを加え、1,500万人程度が新たに労働市場に参入すると見られています。
政府機関と民間が共同で参加する団体「中国就業促進会」の副会長は、新規雇用創出の規模がどの程度になるかは、経済成長、特に創造的、革新的な産業の成長度合いと、中小企業の台頭の成否によると指摘し、中小、ベンチャーへの期待が大きいと述べています。
新卒者には、新規雇用創出の急減に加え、今後更なる逆風が吹くと見られています。
中国では、公的年金制度の整備が不十分な中、退職者(年金受給者)が急増し、制度が危機に瀕しています。
現在、就労者3.04人に対し退職者1人となっている割合が、2050年には1.3人に対し1人になるとの試算もあります。
このため、政府は2017年にも、現在男性60歳、女性55歳とされている退職年齢(年金受給開始年齢)の段階的な引上げを決定すると見られており、将来的に世代を超えたポストの奪い合いが発生することが懸念されます。
都市部の失業率は、2010年から14年までの5年間、4.1%程度で安定していましたが、今年は4.5%に上昇すると見られており、今後更なる上昇も予想されています。
大卒初任給も、一時は月額7,000元(約135,000円)程度が平均とまで言われましたが、現在は6,000元(約116,000円)あるいはそれ以下に下がっているとされ、業種や地域間の差も広がっているようです。
日本では春闘の時期となり、賃上げがどの程度実現するかに注目が集まっていますが、中国の雇用環境悪化と賃金水準の低下傾向は、景気の足をさらに引っ張りかねません。
先月の春節連休中は、訪日中国人観光客の「爆買い」など、景気の良い話が飛び交いましたが、足元を俯瞰しますとかなり心配な兆候も見られます。
一昨年から昨年の前半までは、食料品や日用品などの価格がどんどん上昇し、買い物が憂鬱になったものですが、最近は大分落ち着いたように思われます。こんなところにも、景気の減速が感じられます。
もっとも、円安の進行で、日本人にとっては厳しい状況が続いているのですが。
中国では、景気減速や高齢化の進行など、即効性のある解決策が見いだせない問題が山積しています。
北京でも日差しが暖かさを増し、ようやく春の訪れを感じられるようになりましたが、この先、見通しは明るいとは言えないようです。
今後も注意深く見ていきたいと思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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