マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
注目された3月のFOMC米連邦公開市場委員会。FRBは利上げ開始時期を判断する際に「忍耐強く(patient)」いられるとした文言を削除し、フォワードガイダンスの変更に踏み切りました。ここだけを取り上げて見れば、いよいよ米国は利上げに向けて動き出したというシグナルですのでドル高要因のはず...ですが、直後からの為替市場の反応はドル安でした。出てきた材料がドル高要因と判断されるものであったのに、何故相場は逆に動いたのでしょうか。
①バイ・ザ・ルーモア/セル・ザ・ファクト「噂で買って事実で売れ」
市場は、先へ先へと思惑を織り込んで動いています。例えば今回の「忍耐強く」文言の削除も市場関係者の多くが予想した通りであり、驚きはありませんでした。ドルインデックスは3月12日に100の大台に乗せるドル高を演出しており、すでに8か月連続で月足陽線が連なっています。米国はおそらく2015年のうちに利上げを開始するであろうことが、市場関係者のコンセンサスであることから、すでにドル買いは8か月間も継続していたため、「予想通りの結果が出たことで、このテーマでのドル上昇はいったん打ち止めとなるだろう」ということで、ドル買いをしていた向きが手仕舞い売りを仕掛けてきた、ということが考えられます。経済指標や金融政策の変更などのイベント時に向けて相場が大きく予想を織り込んで先に動いてしまっている場合は、予想の通りの内容ではインパクトがないため、トレンドが崩れてしまうということが多くあります。「材料出尽くし」とも呼ばれますが、イベントに向けて強いトレンドが形成されていた場合は、発表前にはポジションを手仕舞い、実を穫ることも戦略の一つです。
②米国経済やインフレ率、政策金利見通しを軒並み引き下げられた
実は、FOMC声明文では「忍耐強く」の文言削除された一方で、米景気の先行き見通しが下方修正され、今後数年間の金利見通しが引き下げられていました。17人の政策金利予測(ドット・チャート)では、2015年末の政策金利の想定が前回の12月の1.125%から0.625%に大きく下方修正されていたのです。この年末の政策金利を前提に2回の利上げとすれば利上げ開始は9月になるとみられ、「忍耐強く」文言削除で、早ければ6月にも利上げされるのではないか、という見通しが後退するものでした。
つまり、6月にもアメリカが利上げする可能性が高いと織り込んでドル高となっていた相場に冷や水が浴びせられた、ということです。予想通り「忍耐強く」の文言は削除されたものの、利上げ時期に関してはこれまでの予想から後退してしまったため、株式市場は、低金利が思ったより長引く可能性に喚起し、再上昇となったのです。
ドルインデックスは月足で8本陽線が連なっており、この3月も陽線引けとなれば9か月連続のドル高となります。しかし、3月のFOMCでのフォワードガイダンスの変更というチェンジと金利、経済見通しの引き下げを確認したことで、市場には材料が出尽くしてしまった感があり、新たなドル買いには燃料が不足している状態になってしまいました。それでも米国以外の国が通貨安競争を激化させており、利上げのバイアスがあるのは米国のみであることから、2015年はドルを買い以外にアィディアがないことから、ドルが大きく売られることは考えにくい状況です。値幅で調整できない相場は、時間をかけて揉みあい、次なる相場へのエネルギーを蓄積することが多く、ドル円相場は117円~122円の5円幅程度で行ったり来たりのレンジ相場で、ここから先は「日柄調整」に入るのではないかと思っています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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