第48回 「株主還元」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

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第48回 「株主還元」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は非常に腰の強い展開が続いています。先週の日経平均株価は一服となりましたが、それまでは週足ベースで6週続伸となっていたことを考えれば当然のスピード調整とも思えます。年度末(3月31日)の終値ベースで2万円に達するかどうか、は微妙ではありますが、2012年秋、つまり、ほんの2年半前はまだ日経平均株価が1万円未満であったことを考えれば、様変わりと言っても過言ではないでしょう。毎日株価を見ているとどうしても目先の揺れに一喜一憂してしまいますが、長期の上昇トレンドは依然として継続しているように思えます。年度末の2万円回復があれば、かつてとの変化を端的に示す極めて象徴的な出来事になると考えています。


さて、今回取り上げるテーマは「株主還元」です。似たようなテーマでは、昨年7月に「配当」を、昨年12月には「スチュワードシップ・コード」を採り上げましたが、今回は少し視点の異なる見方をご紹介したいと思います。実は直近でも、株主還元を軸に機械大手のファナックの株価が急騰する局面がありました。きっかけは、ファナックが投資家(正確には株主)向けに対話を始めたということ。ファナックは日本を代表する優良成長企業の一つですが、これまでIRにはかなり消極的な姿勢でも有名でした。そういった企業が姿勢を転換させてきた、ということが市場に好感されたのです。これのみでは「株主還元」というにはやや拡大解釈な感じは否めませんが、少なくとも市場はその方向性を評価したのだと言えるでしょう。以前に似たテーマを取り上げた時も、配当性向の劇的な変化で株価が急騰した例をご紹介しました。この企業も極めてレベルの高い優良企業ですが、これまではあまり株主還元には積極的ではありませんでした。これらに共通するのは、どちらかといえばIRに消極的であった企業が市場に向けて舵を切り始めたということになります。


先日は日本経済新聞が日立製作所、三菱重工業といった「伝統企業」もROEを経営目標に導入すると報じました。資本効率の改善を進めると言う潮流は奔流となってきているように思います。当然、資本効率の改善を進めるには、フローの利益拡大を図るだけでなく、配当などを増やして自己資本をある程度制御しておく必要があります。そういった意味では、ROEへの注力とは株主還元の充実に繋がることでもあるのです。かつて1990年代には、伝統企業の経営者が「ROEなど眼中にない」と発言したことと比べると、まさに隔世の観があります。


このことは、未だ株主還元に積極的でない企業は、将来的に方向転換がなされる可能性があり、その場合には株式市場でも高く評価されるチャンスがある、ということを示しています。逆張り的な発想ですが、投資を考えるうえではそういった一種の「待ち伏せ」的なアプローチも理に適ったものということができるでしょう。少なくとも世の中の流れは株主還元の方向にある以上、遅かれ早かれ企業が方向転換すると考えることに無理はありません。そして例に挙げた企業のように、それが優良企業であればあるほど、方向転換のインパクトは強烈なものとなるはずです。優良企業であり、かつ株主還元に現時点で消極的な企業というのは、投資対象としてある意味狙い目と言えるかもしれません。当然ながら、期待通りに姿勢が転換されるかどうかは、予測不能ではあるのですが。


ちなみに、こういったアプローチは(一般的な)機関投資家にはできません。待ち伏せ的な投資をした結果、いつまで経っても姿勢転換がなされなければ、運用パフォーマンスが悪化してしまいかねないため、です。機関投資家は一定の期間で期待以上の運用成果を出す必要があるため、「そうなるタイミングがさっぱりわからなく、予測も不可能」という要因に対しては待ち伏せ戦略を採ることはできないのです。似たようなケースには、ヒットするかどうかわからないゲーム、モノになるかどうかわからないバイオ、などがありますが、あくまでこれらは本業そのものであり、売れ行きなどをつぶさに見て行けば合理的な予測そのものは可能です。これに対して、経営姿勢の変化というものはいくら外部から分析を加えても予測に合理性を持たせることができないという点で決定的に異なるのです。換言すれば、こういった投資戦術(戦略というよりも戦術)は云わば個人投資家の真骨頂ともいうことができるかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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