マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。新年度を迎え、桜が美しい季節となりました。4月から新しい学校、職場、生活環境となる方も少なくないでしょう。新天地でのご活躍なされますことをお祈りしております。筆者もこのコラムを執筆してもう既に4年を越えました。少しでも投資家の皆様に興味深い視点を提供できるよう、今後も努力を続けたいと思っています。引き続きご愛読いただけますよう、お願い申し上げます。さて、新年度に入って株式相場は俄然不安定となってきました。2月以降は実に6週続伸と言う好調を演じていたものの、新年度入りを契機に先物主導でかなり荒っぽい動きとなっています。筆者の個人的見解ですが、2年前から始まった上昇相場はまだ途上にあるものの、当面は日柄調整も止む無しといったところでしょうか。腰の強い相場がしばらく続いた後でもあることを考えると、ここは「休むも相場」というところなのかもしれません。
今回、本コラムでは「IPO」を採り上げたいと思います。IPO(Initial Public Offering)とは、つまり株式市場への新規上場のことを指します。事業会社は上場によって(銀行借り入れとは異なる)資金調達をすることができ、それをさらなる事業成長投資に振り向けて成長の原資とする、という仕組みです。その分、事業会社は「公開会社」としての責務を負うことになりますが、これが経営の透明性にも繋がることになります。投資家から見ても、有望な投資対象が増えるという点でメリットがあるのです。また、経験的に上場後は公募価格(投資家が新規公開(IPO)株を買う際の価格)よりも高い値段がつくことが少なくないため、IPO株は投資魅力度の高い投資対象と目される傾向にあります。実際、公募株を購入して上場後すぐに利食うという投資行動も珍しいものではありません。そのため、証券会社からIPO株募集の告知があれば、是非応募しておきたい、と考える投資家は多いように思えます。
では、なぜ上場すれば株価は公募価格を上回る(ことが多い)のでしょうか。これには様々な解釈がありますが、資金調達によって一段の成長期待がなされることに加え、そもそも募集を円滑にするために公募価格事態が保守的に設定されがちなこと、などが挙げられるでしょう。保守的な公募価格設定には、株価を経営の一つの指標として捉え、正しい評価を市場につけてもらいたいという上場会社側の意図も少なからず影響しています。よく証券会社は新規上場会社に「小さく産んで大きく育てる(公募価格は抑制的にし、上場後の株価上昇を狙う)」と説明することがありますが、そういった事情を端的に示していると言えるかもしれません。一方、当該企業は上場に際して、自社の将来性や理念といった情報を投資家に提供してその評価を受けることになります。そういった意味では、今後もIPO株への投資戦略には合理性があるように考えられます。
しかし、この公募価格が分不相応な高値に設定された場合(当該企業はこれによって多額の資金調達が可能となります)、当然上場後どこかの段階でそのめっきが剥げることになります。特に、そのために投資家への楽観的過ぎる将来像の提供や決算内容・見通しの虚偽隠蔽があった場合、公募に応じた株主は著しく不利益を被ることになりかねず、状況によっては資本市場の信頼性も毀損しかねない事態に発展するリスクが否めません。実は直近、上場後すぐにそれまでの決算見通しを一気に下方修正する企業が相次いだことを契機に、IPOのモラルに関して疑問・不満が高まってきていました。もちろん、不測の事態から見通しの急変を強いられる可能性は常に存在するのですが、似たケースが続いたことでその一気にその不満が顕在化したと言えます。日本取引所グループも事態を深刻に捉え、先日は異例の問題提起にも至っています。
重要なのは、こういった問題点を投資家が上場前の公募の段階で見極めるのは非常に難しいということです。この点は、公開情報やアナリスト分析、株価動向で投資家にも見極めの手段がある上場会社とは決定的に異なります。そのためにも上場前には幹事証券が相当に関与して準備を進めいているはずなのですが、それでも結果的に投資家へのミスリード発生が相次いでしまったということになります。このことは非常に憂慮せざるを得ません。こういったリスクの増大は単にIPO株への投資戦略に影響が出るだけでなく、資本市場の裾野拡大に逆行することになりかねないためです。今回は投資視点というよりも問題提起に近い内容となってしまいましたが、お許しを。今後のIPO株投資を考えるうえでも、この問題は非常に重要なのですから。
コラム執筆:長谷部 翔太郎
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