第154回 世界の外貨準備と為替相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第154回 世界の外貨準備と為替相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

雇用統計の結果を受けて、ドル安基調となったことでユーロが買い戻されていますが、3月31日はドル高ユーロ安が進む局面がありました。この日はIMF国際通貨基金が「10-12月期の世界中央銀行の外貨準備構成」を発表したのですが、各国中央銀行が保有する外貨準備に占めるドルの比率が2014年第4・四半期は62.9%となり、前四半期の62.4%から上昇、ユーロの比率は22.2%と、前四半期の22.6%から低下、ユーロの比率は2009年に28%とピークを付けて下落が続いていたことが分かりました。世界の中央銀行の外貨準備とは一体何でしょうか。為替市場にはどのような影響を及ぼすものなのでしょうか。
各国が自国通貨だけでなく外貨を保有する目的は

①対外債務の返済 ②輸入代金の決済③通貨の安定のための介入原資、

などがあります。

①②については、例えば米国と取引があれば、米ドルで支払い、返済しないといけないわけですから、外貨準備で米ドルを保有しておくということですね。
この外貨準備高が増加する主たる要因は、通貨当局による為替市場への介入です。これが外貨保有の目的の③に該当します。為替市場で急激に自国通貨が高くなることで、貿易条件が著しく悪化するような局面では「自国通貨売り、外貨買い」という形での介入が行われます。自国通貨を売却して外国通貨を購入するために外貨が増えていくということです。アベノミクス相場前夜の円高局面では、幾度も円売りドル買い介入が行われましたが、この時に購入された米ドルも日本の外貨準備の中のドルの保有比率を高めた、ということになります。

あるいは保有する外貨建ての債券価格が上昇(金利は低下)した場合も、外貨準備高が増加します。預金として単純に通貨で保有していた場合は、ドル高になれば、ドルの保有比率が上がりますし、ドル安となればドルの保有比率が下がるといった具合に、価格変動によって保有比率が変わるということですね。

もちろん逆もあります。自国通貨が一方的に安くなることがあれば、外貨準備の中の外貨を使って、自国通貨を買う介入が行われることもあります。理論的には自国通貨は、いくらでも刷る(発行)ことができるので、自国通貨売り、外貨買い介入は無制限に出来るといわれていますが、逆に、外貨を売って自国通貨を買うという介入は、外貨準備高の外貨が尽きてしまえば介入ができなくなるため、通貨安に歯止めをかける介入には限度があります。どの程度の外貨を保有しているのかは各国さまざまですが、一般的には「輸入額の3カ月分」が最低限必要とされているようです。

世界中の中央銀行の外貨準備の総計はなんと、2014年末時点で11兆6005億ドル。日本円でおよそ1400兆円もあります。14年9月末から1656億ドル減少しており、減少は2四半期連続となっても、これだけの規模の外貨準備があるのです。2014年10-12月期は「外貨準備の全体の7割弱を占める新興国」が外準保有を減らしており、これは利上げ準備段階に入ったドルに資金シフトが進んでいるため、急速な自国通貨安への対応として一部の新興国では手持ちのドルを売り自国通貨を買い支える為替介入を実施するなど、通貨防衛として外準を取り崩す動きが出ていたものと考えられます。

また、各国外準のユーロの保有比率は2008年をピークに下がり続けていますが、今回の比率低下は、中央銀行によるユーロからドルへのシフトではなく、単純にユーロが下落したせいで、おのずと比率が低下しただけだ、という見方もあるようです。マイナス金利であるユーロを保有し続けるのは外貨準備高そのものが減少するリスクでもあるため、いずれ金利が上がる米ドルにリバランスしたほうがいいと考える国が増えれば、これから本格的にユーロからドルへの資金シフトが始まる可能性もあるというのです。ユーロの保有比率が下がり続けている背景には、ユーロ下落だけではなくて、ドルからユーロへのリバランスも行われてきた結果だと思いますが、もし、今後もこの流れが継続するならば、その規模から見ても、相当なユーロ安の圧力となると考えられることから、31日の発表を前に、思惑でユーロの下落が進んだのです。1400兆円にも上る世界の外貨準備のポートフォリオが、今後の各国の金融政策を鑑みてリバランスされるだけでも、相当な通貨変動要因となるということも、覚えておきたいところです。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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