マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
昨年8月に、映画俳優ジャッキー・チェンの息子ジェイシー・チャンが大麻の使用を他人に勧めたとして北京市警察に逮捕され、本年1月に6ヶ月の懲役刑と2,000元(約39,000円)の罰金刑が確定しました。
有名人が関与した事件ということで大きく報道されましたが、中国では19世紀清王朝時代のアヘン戦争(敗戦により香港が英国植民地に)に象徴されるように、歴史的にも薬物が広く流通していた経緯があり、違法薬物の密輸等、ならびに薬物使用により引き起こされる犯罪が大きな問題となっています。
アヘン戦争の「アヘン」は、英国が植民地のインドで生産し、中国(当時は清国)に輸出していたものですが、現在は南部で国境を接するベトナム、ラオス及びミャンマーからの密輸が主要ルートとなっています。また、東北部を中心とする国内で製造される覚せい剤、さらには北朝鮮から密輸入される高純度の覚せい剤も新たな問題です。
2010年には、覚せい剤の日本への密輸を企てたとして、日本人男性4名に対し、死刑が執行されました。
昨年2014年に、中国では薬物に係る犯罪が前年比32.7%増の146,000件摘発されました。逮捕者は同15.7%増の169,000名となっています。
密輸も深刻化しており、昨年10月から12月の3ヶ月間に警察が捜査を行った件数は45,600件に達しました。密輸業者側は武装を強化しており、拳銃542丁と弾丸4万発が押収されています。
国境を跨ぐ密輸事件は、捜査に相手国側の協力も必要となり、時間と労力を要します。
中国とベトナムの両国では、協力して麻薬撲滅の啓発運動を行う等、犯罪の未然防止にも努めているそうです。
密輸事件等が増加していることは、違法薬物への需要が高まっていることの反映と言えます。
中国では、昨年11月末の時点で、確認されているだけで薬物常習者が276万人存在しますが、中国の社会科学研究分野での最高学術機構である中国社会科学院の法学研究所は、薬物使用者は全国で1,300万人を超えるとの研究結果を公表しています。
同研究所の推定によれば、薬物使用者の75%は35歳未満で、薬物の購入には毎年500億元(約9,700億円)が使われています。
薬物の購入それ自体が経済損失と言えますが、薬物使用により健康を害することによる医療費の増加や、薬物使用者が引き起こす犯罪による損失を加えると、薬物は使用者自身にとどまらず、社会全体に莫大な損失をもたらすものと言えます。
中国社会科学院の研究リーダーは、政府が市民に対し、違法薬物の使用や流通に関する情報を警察に通報するよう奨励し、通報者には報奨を与えることを提案しています。
実際、北京市では、冒頭に紹介しましたジェイシー・チャンの事件を含め、市民からの情報提供に基づく摘発の件数が増えているそうです。
中国では、清朝時代にアヘンの蔓延をきっかけとして国が引き裂かれ、王朝の崩壊につながったことから、麻薬の製造、密輸や販売について最高刑を死刑とする等、厳罰を課しています。
一方、歴史的な経緯も踏まえ、少量の保持や使用は犯罪とされておらず、この点日本とはかなり異なっています(ただし、薬物使用者には更生のため施設への収容等の措置が取られます)。
それでも、ハイリスクながらハイリターンということでしょうか、薬物の密輸事件は後を絶たないようで、問題の深刻さがうかがえます。
日本でも、多量の覚せい剤の密輸事件や、芸能人などによる所持、使用事件が頻繁に報じられており、撲滅がいかに困難であるかが理解できます。
覚せい剤については、近年中南米やアフリカ諸国からの密輸も増えているそうで、世界的な広がりも見られます。
他の犯罪行為に対する刑罰とのバランスの問題もありますが、日本でも薬物の製造、流通あるいは販売に対する刑罰を強化することは検討に値するように思われます。
日中両国、また世界のどの国においても、麻薬等の違法薬物は経済及び社会にとっての深刻な問題です。
各国がそれぞれの事情に応じ、また一致団結して、解決に向け努力を続けることが求められます。長い道のりではありますが、関係機関の奮起を望みたく思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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