第157回 貿易収支の黒字転換でどうなるドル/円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第157回 貿易収支の黒字転換でどうなるドル/円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

財務省が先週22日発表した2015年3月の貿易収支(速報)に注目しています。2012年6月以来、2年9か月ぶりに日本の貿易収支が2293億円の黒字になったのです。(ちなみに前年同月は1兆4501億円の赤字)この発表を受けてすぐに為替市場が動いたということはありませんでした。貿易収支の数字は価格のボラティリティ(変動率)を高めるような強烈なインパクトを持つものではありません。しかし、他に為替を動かす材料が見当たらない場合には、じわじわと効いてきて大局のトレンドを形成する材料ですので、2年9カ月ぶりの貿易収支の赤字から黒字へ転換したということが、ひょっとしたらドル/円相場のドル高円安トレンドの終焉を示唆しているのかもしれない、という考え方も出来ると思うのです。

貿易収支とは、「商品やサービス」を外国に売ったり買ったりすることによって出た収入と支出のことです。日本は31年もの間、輸出額が輸入額を上回る貿易黒字の状態にありました。これが、長期的に日本が円高であった所以です。輸出が強い日本の強い円ということですが、何故輸出が大きい黒字だと円高になってしまうのでしょうか。

日本の輸出企業は、海外でモノが売れた場合、商品の代価として受け取った外貨(米ドル・ユーロ)を、国内での部品調達や従業員の給与の支払い、税の支払いなどに充てるため、為替市場を通して日本円に両替する必要が生じます。このように獲得した外貨を円に替える行為を「円転(えんてん)」と呼びます。輸出企業の売上が大きく黒字が拡大している時はこの円転の圧力によって、為替市場では円買いドル売り=円高ドル安が進む材料となってしまいます。

逆に、貿易赤字の場合は、円転されるニーズがないということです。2012年6月以降の2年9カ月の間、日本は貿易赤字だったために貿易による円買いが発生しませんでした。円買いがなかった、というだけではありません。2011年3月11日に発生した東日本大震災で東京電力の原発事故が起こり、その影響で全国の原子力発電が停止、火力発電用の燃料の輸入が増えました。化石燃料を購入するのは基本的に基軸通貨、決済通貨のドルです。円をドルに換えて化石燃料を買って輸入する、このことが円売りドル買いの圧力となり、ドル/円相場はそれまでの円高の構造から円安の構造へと大転換した、ということが軸にあったために、円安ドル高は大きなトレンドとなったのです。

しかし、先週発表された3月の貿易収支では赤字から黒字に転換していたのです。大きな要因となっているのは原油価格の急落と、エネルギー輸入の契約形態にあります。震災後、日本はエネルギー不足となり中東から緊急にLNG(液化天然ガス)を輸入しましたが、この時のLNG価格は100万BTU(熱量単位)当たり16~18ドルもの高いコストでの輸入でした。すでに起こっていたアメリカのシェールガスの当時の価格が3-5ドルだったとされており、かなり割高なLNG輸入を強いられたのです。この中東との契約のLNGは原油価格リンクとなっており、2014年夏までは原油価格の高騰が続いたために、日本の貿易赤字は拡大する一方だったのです。しかし、2014年秋口から原油価格が急落しおよそ半値にまで安くなりました。この影響がいよいよ日本の貿易収支に反映され始めたということです。しかし、貿易収支だけが為替の変動要因ではありません。すぐに円高になる、ということではないのですが、、、。

ドル/円相場は118.50円~120.50円の狭いレンジでの推移が長期化の様相を呈し始めていますが、今年年初に多かったドル/円125~130円方向への円安ドル高予想が少しトーンダウンし始めたようです。

日銀の量的緩和政策で円がじゃぶじゃぶになることから円の価値が減価していく、という本邦サイドからの「円売りの材料」と、米国の景気回復により、いよいよこれまでのゼロ金利を解除し利上げを行うだろうという米国サイドからの「ドル買い材料」の両輪によって、勢いを伴って上昇してきたドル/円相場ですが、120円を超えてきたあたりから、日米双方から過度なドル高円安に懸念の声が出始めています。

そこへきて、黙っていても円安ドル高の圧力になっていた貿易赤字が解消してしまった...。ということで、ドル/円相場は125~130円へと上昇できるのか、マーケットも懐疑的になってきているようです。今週は明日29日の米1-3月期のGDPの数字が米国の利上げ時期を巡る材料となって動きそうですし、30日には追加緩和が期待されている日銀の金融政策決定会合があります。目先のボラティリティを作るのはこうしたイベントです。追加緩和があればドル/円は上昇すると思いますが、金融政策での上昇には賞味期限もあります。ドル/円上昇の燃料がなくなれば、貿易黒字による円転圧力でじわじわと円高に動きやすい地合いとなってきていることを覚えておきましょう。貿易黒字が恒常化するかどうか、という点にも注目していく必要がありますね。来週は祝日でコラムはお休みです。皆さん良いGWを!


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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