第113回 大豆の消費量が増加し世界の需給に影響か?【北京駐在員事務所から】

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第113回 大豆の消費量が増加し世界の需給に影響か?【北京駐在員事務所から】

豆腐や味噌、醤油などの原材料として、また納豆や煮豆などの食材として、大豆は日本人の食に欠くことのできないものですが、中国でも大豆は重要な食品の一つです。
大豆の用途は大きく二つに分けられ、一つは食用油(大豆油)を製造し、搾りかすを家畜の飼料とするものです。中華料理には大量の油が使われますので、大豆油の消費量も膨大なものとなります。
もう一つは日本と同様、食材として、あるいは豆腐や調味料(「○○醤」の名がつく各種調味料や醤油など)の原材料として使われるものです。
豆腐は、四川料理の麻婆豆腐や、上海料理の蟹味噌豆腐のように、軟らかいものも多く食されますが、これに加えて、水分を切った押し豆腐が、炒めものや和え物の材料として中国全土で広く使われています。味付けも様々で大変美味しいものです。

中国は、世界で最初に大豆の栽培を始めた国とも言われており、20世紀前半には世界の一大供給国となっていました。しかし、中華人民共和国の誕生後、共産党政権は食糧の自給自足を重視する観点から、米や小麦など穀物の生産を奨励し、大豆の栽培を軽視する政策をとって来ました。その後、生活水準の向上により、肉類や油の消費が拡大した結果、大豆の需要が高まり、今では世界一の大豆輸入国となっています。
世界の大豆の貿易取引量は1億トン弱で、一方中国の輸入量は7,000万トンを超えており、全世界で取引される大豆の7割以上が中国に集まっています。
中国向けの主要な輸出国は米国、ブラジル及びアルゼンチンで、中でも米国が長く最大の輸出国として君臨していましたが、近年ブラジルが米国を抜き、第一位に躍り出ています。

4月20日に政府が発表した見通しによると、2024年の時点で、中国の大豆消費量は9,671万トン、輸入量は8,266万トンに達するとされています。ともに現在から15%程度増加する見込みです。消費量の85%を輸入に頼ることになります。
2013年の世界の大豆生産量が2.7億トンですので、もし増産がなければ、中国一国で世界の大豆の3分の1を消費するとの計算になります。
ちなみに、2013年に、日本は276万トンの大豆を輸入しており、一方国内生産高は20万トンでした。消費量に対する輸入割合は93%です。「国産大豆」が希少品であることがわかります。

主食となる米あるいは小麦については、中国政府の見通しでは大部分を国内生産で賄えるとされています。もっとも、例えば米については、まだ数量は僅少であるものの、食味に優れるとの評価からタイなどからの輸入米の人気が高まっており、また高価なため極めて限定的ではありますが、日本米への需要も今後増加すると見込まれています。
さらに、生活水準の向上で肉類や乳製品の需要も高まると見られており、「穀物中心から肉と乳製品をより消費する食生活」への変化が都市部を中心に広がりそうです。

中国では、インフラ整備などの問題もあるため「全面開放」とまでは行かないものの、農村部から都市部への人口シフトを図っており、「都市化」による経済発展を目指しています。
農村部での労働力不足が心配になるところですが、専門家によると、機械化と農地の集約、大規模化による生産性向上の効果で、農業従事者が減少しても、生産量は増加が見込めるそうです。
しかしながら、中国国内を見ますと、北部を中心とした水の不足や、重金属や化学物質による土壌汚染と水質悪化の問題があり、優良な耕作地が将来にわたり維持できるか否か不安もあります。
また、需給の逼迫が予想される大豆については、米国やブラジルで増産の余地が乏しくなっていると指摘されており、懸念されるところです。

日本と中国では食糧の消費量に圧倒的な差がありますので、中国が購買力を付け、世界市場で買いまくる動きに出れば、日本は太刀打ちできなくなる恐れがあります。
大豆のほか、牛肉や乳製品(バターなど)の需給逼迫が心配になります。将来、すき焼き(牛肉、豆腐、醤油)はもちろんのこと、豆腐の味噌汁が超高級料理にという時代になってしまうのかもしれません。
できれば考えたくないところですが、中国の台頭を見るにつけ、将来を案じざるを得ないというのが正直なところです。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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