第159回 債券市場の動向が為替に及ぼす影響 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第159回 債券市場の動向が為替に及ぼす影響 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

FXトレードは為替のチャートだけを見ていてもなかなか勝てません。ドル/円相場はすっかり膠着してしまいましたが、ユーロ/ドル相場などは大きく動いています。現在のユーロ上昇は債券市場でのドイツ国債の利回りと強い相関が見られます。世界が金融緩和に踏み切った金余りの世界では、どこかの市場でバブルが形成されそれが崩れるとまたどこかでバブルが起きるという資金循環が見られますが、今どのマーケットが人気化しているのか、そして何をテーマに、どの市場と相関しているのか。いち早くこれを見極めることが勝ち組に近づく「コツ」です。


国債とは、国が市場から資金を調達する事を目的として発行されています。国ですから破綻リスクが極めて低いため、世界中の投資家にとって国債は安全な資金運用の手段ですが、そのために国債を保有することで得られる利回りはそれほど大きくありません。国債は買いが多くなると国債価格は上がりますが、逆に利回りが低下します。人気が出れば出るほど利回りが下がっていってしまうのです。

日米欧の中央銀行は、市中の国債を中央銀行が買い入れることで、その分の資金を市場に放出するという形の「量的緩和政策」を実施しています。そのため、世界日米欧の国債利回りは非常に低い状況が続いており、この利回り低下が為替市場においても通貨安の一因となってきます。最も早く量的緩和政策を行ったのが米国でしたが、米国の量的緩和政策は打ち止めとなり、年内には政策金利の利上げが目されているために、米国債利回りも利上げを意識する形で徐々に上昇してきています。米国債10年物利回りは最も早く上昇を開始したのは、米国が最も早く量的緩和策を終え、金利の正常化に向かうことが織り込まれているためです。一方でECB(欧州中央銀行)がこの量的緩和政策に踏み切ったのが3月。ECBが実際に購入を開始する前から、世界の金融機関の投資家らは、ECBが買入れを実施するのが分かっていたために先を争って欧州の国債を買ったために、欧州の、特にドイツ10年国債利回りはみるみる低下し0.049%まで下落、この動きに相関してユーロはどんどん下落していきました。しかし、行き過ぎた相場には大きな反動が待ち受けているものです。バブル的に買われていたドイツ国債が急激に売られたことで、ドイツ国債利回りは0.9%台形まで急反騰。この利回りに連れてユーロが急反騰となっているのです。

現在は、ドイツ国債がバブル的に買われていた反動からドイツ国債利回りのボラティリティが上がっており、為替市場もこの「国債利回りの変動」に強い相関を示しています。ユーロというと、なかなか支援合意が得られず、デフォルトやEU離脱のリスクが高いギリシャ問題が影響しているかに思えますが、少なくとも現状のマーケットではギリシャ問題ではなく、債券市場動向(国債利回り)が、主軸の注目材料となっており、為替の変動要因にかなり大きな影響を及ぼしています。

勿論、債券利回りとの為替の相関が強まっているのはユーロだけではありません。米国の利上げ時期が2015年の為替市場の大きなテーマとなっていることから米国債の利回り動向も重要な指標となってきており、雇用統計や鉱工業生産など、米国の景気指標の良し悪しで、利上げ時期の憶測が交錯するため、為替市場も神経質に動いていますね。ドル/円相場を見る際には米国債2年債、10年債利回りの動向が非常に重要なファクターとなってきています。為替の変動要因は多岐に渡るため、常に国債利回りと相関しているわけではありませんが、例えばユーロ/ドル相場を見る場合、こうした欧州側の材料でユーロ主導で動くこともありますが、米国の金融政策への思惑でドル主導で動くこともあります。ドルが動くことで結果的にユーロが動くこともある、というのが為替展望の難しいところですね。
その相関がもたらす事象を教科書的に簡単に解説すると、

  • ◇米国債の利回り上昇=米国債が売られている
  • →資金は債券から株へ 米国株上昇(現金になるだけの場合もある)
  • →利回り上昇した米国の通貨が買われる



  • ◇ドイツ国債利回り上昇=ドイツ国債が売られている

  • →資金は債券から株へ ドイツ株上昇(現金になるだけの場合もある)
  • →利回り上昇したドイツの通貨が買われる

ここで不思議なのはドイツ株が上昇していないじゃないか、ということ。今回のドイツ国債利回り上昇局面では、ドイツ株は大きな調整を強いられています。国債が売られても株に資金が流入するという資金の流れが必ず起こるというワケではありません。今回の場合、ドイツ国債をパンパンに買っていた(バブルと称されるほどに)債券ディーラーらは、ドイツ国債の急落でかなりの損失を計上しました。損失が出た金融機関は別の利益の出ている資産をキャッシュにしてその分を補うこともあります。これまでECBの金融政策の影響で長らくユーロ安が続いていたことで、株式市場ではユーロキャリートレードがトレンド化しており、金利の安いユーロを借りてきてドイツ株を買う動きもバブルの様相を呈していました。これが、債券市場の異変をきっかけに全て大逆流を起こしたともいえるでしょう。ここからのユーロ相場を見る際には、ドイツ国債利回りが、まだ上昇を続けるのか、頭打ちとなるのかを見極めるのがポイントとなってきます。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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