第116回 中国人観光客の獲得に力を入れるパリ【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第116回 中国人観光客の獲得に力を入れるパリ【北京駐在員事務所から】

フランスの首都パリは世界屈指の観光都市です。近隣のヨーロッパ諸国からの訪問客が多いという、恵まれた条件がありますが、外国人旅行者が多く訪れる都市のランキングで、ロンドン(英国)に次ぐ世界第2位だそうです。
歴史的建造物や街並み、芸術文化、ファッションにグルメと魅力満載ですので、近年中国人観光客も急増しています。
昨年2014年にパリを訪れた中国人旅行客は約53万人で、ヨーロッパ諸国や米国に伍して国別での第7位となりました。

一方、以前より、すり、置き引き、強盗事件などが多発し、治安には問題ありと指摘されています。
加えて、本年1月の出版社「シャルリー・エブド」への襲撃事件発生により、テロ事件に巻き込まれることへの不安も広がったため、パリ市当局や観光業界は外国人、特に中国人観光客の足が遠のくことへの懸念を強めており、対策に努めています。
市は主要観光地や繁華街を警備する警察官を増やし、加えて警察の中国語ウェブサイトで犯罪やトラブルの事例を説明し注意を促しています。一部には中国語を話せる警察官も配置しているそうです。
また観光局では、滞在中に注意すべき事項を記載した中国語のパンフレットを配布しています。

中国政府も、観光客が不測の事態に遭遇することが無いよう対策を講じています。
パリの中国大使館は、市中心部と空港を結ぶ地下鉄(盗難事件が多発することで有名です)の利用を控え、バスあるいはタクシーの利用を勧める異例の警告を出しました。
羽田空港から東京都心に向かう際に、「モノレールや京浜急行には乗るな」と言うような話ですから、地下鉄がいかに危険か、想像いただけると思います。
パリ在住の私の友人も、「空港への往復に地下鉄は絶対に使わない」と話しています。

これらの取組により、中国人旅行客が被害者となる盗難事件の件数は以前に比べ減少しているそうですが、それでも中国大使館には、空港に向かう地下鉄で盗難に遭い、帰路の航空便に搭乗できなくなった例などが報告されているそうです。
中国人は多額の現金を持つことが多く、現地の泥棒たちの間では「格好のカモ」になっているようです。
旅行代理店団体の会長は、「中国人は皆パリに憧れて訪問するが、一部の旅行者は滞在中に悲惨な経験をし、二度と戻って来ない」と述べています。
もっとも、パリの観光業界、あるいはホテル、飲食、小売等の業界の最大の懸念は、犯罪や治安悪化の問題ではなく、習近平政権が進めている汚職撲滅運動により、中国の官僚や国営企業の幹部等が以前のような散財をしなくなることだとも言われています。

中国人旅行客は、その数の多さに加え、滞在中の消費額が多く、小売店などにとってはお得意様となっています。国別では堂々の第1位で、有名ブランド品を中心に平均で1,500ユーロ(約20万円)を買い物に充てているそうです。
円安の効果で、中国人旅行客の日本での「爆買い」がすっかり有名になりましたが、人民元は対ユーロでも高くなっていますので、パリなど欧州での買い物は、中国人にとりますます魅力的なものになっています。

先月、パリ市の観光局は、大手百貨店のプランタンなどフランス企業20社とともに、北京、上海及び広州を訪れ、観光客誘致のキャンペーン活動を行いました。
相前後する形で、自民党の二階総務会長が、観光業界の関係者など合計3,000人を伴い、中国を訪問しましたが、世界各国がこぞって、観光客の取り込みをもくろみ「中国詣で」に動いています。
日本は距離的に近いという強みを持っていますが、欧米諸国やリゾートなどライバルも強力です。新たな魅力をどんどん打ち出していく必要がありそうです。

1980年代のバブルの頃には、世界の至るところに日本語の看板や表示が見られ、また商店などでも、日本語を話す店員を多く目にしました。
30年余りが過ぎ、今では中国語に取って代わられつつあります。
当然ではありますが、「数は力」と痛感させられます。
観光や関連業界だけでなく、これからは国を挙げての「おもてなし」で、中国人を初め世界各地からの観光客を獲得していければと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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