マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
人民元高と賃金の上昇により、足元では陰りも見えていますが、中国は長く「世界の工場」と呼ばれ、衣料品、自動車、パソコンや携帯電話など多くの人手を要する製造業各社が拠点を設けています。
世界のスマホ市場を席巻するiPhoneが南部の深圳で製造されていることは、一つの象徴的な例と言えます。
日本では、中国を初めとする諸外国への生産拠点の移転が進み、空洞化あるいは雇用の減少による経済への悪影響が懸念されていますが、米国でも、中国への製造業のシフトについて、政治家あるいは労働組合などから、度々懸念あるいは牽制の声が上がっています。
ところが、最近発表された調査結果によると、近年中国企業がM&A等により米国への進出を強め、米国での新たな雇用の創出に寄与しているとのことで、注目を集めています。
調査を行った米国のRhodium Groupによると、中国企業は2000年から2014年までの15年間に、米国で460億ドル(約5.6兆円)を投資し、1,500社の企業を設立しました。2010年の時点では、これら中国企業の投資により米国内で創出された雇用は15,000人程度でしたが、直近では80,000人にまで増加しているそうです。
2020年までに、投資額は1,000億ドル(約12兆円)から2,000億ドル(約24兆円)に膨らみ、雇用創出も200,000人から400,000人に達すると見られています。
中国企業の投資の成功例として象徴的なものが、IBMのパソコン部門を買収したLenovoです。
Lenovoは買収後も南東部のノースカロライナ州でパソコンの製造を続けており、地元経済に貢献しています。
同社のように、ブランドや競争力を伴っての成功例もありますが、Rhodium社は、中国企業が米国の労働者の能力を高く評価し、広範な業種、分野に投資を行っているとし、以前に持たれていた、中国企業が買収した資産と雇用を直ちに本国に移転するのではないかという恐怖は現実のものとはなっていないと指摘しています。
最近では、製造業に限らず、不動産やエネルギー供給の分野にも進出し、雇用の増加をもたらしているとのことで、米国各地で中国企業の誘致合戦が展開されているそうです。
1980年代から90年代にかけ、急速な円高、ドル安が進む中で、自動車メーカーを初めとする日本の製造業各社は相次ぎ米国に進出しました。
米国内での販売拡大のために必然であったとは言え、労使問題などで大変な苦労を伴い、また高い授業料を支払うこととなりました。
20年余りを経て、主役は中国企業に交代しつつあるように思われます。
経済面での米中両大国の関係強化は、政治にも波及し、将来国際社会の中での日本の存在、立ち位置にも影響を及ぼしかねません。今後も注視が必要です。
中国が「世界の工場」から「世界の市場」としての重要度を高めて行くことは間違いないところです。
13億の人口を擁し、かつ所得と生活水準が年々向上しているのですから、企業はますます利益を蓄積し、米国ほか世界に打って出ることになるでしょう。
また、世界の企業にとっての中国市場の魅力も、ますます高まっていくことが確実です。
日本企業が、より高技術、高付加価値の製品を創出して勝負するのか、あるいは観光を含めたサービス業に活路を見出すのか、戦略はいろいろ考えられますが、スケールの大きさという点では、将来を悲観的に見ざるを得ません。
中国企業の台頭と1980年代、90年代の日本企業を重ね、いろいろ考えさせられることとなりました。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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