マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
5日の5月米雇用統計を受けて125.84円まで上昇したドル/円相場でしたが、先週は黒田日銀総裁の「(実質実効為替レートからみると)さらに円安に振れることはありそうにない」発言を受け、ドル/円相場は大きく下落しました。ここで出てきた「実質実効為替レート」とは一体何なのでしょう。
たった3年前には80円台で推移していたドル/円レートが現在は120円台です。あまりにもダイナミックな動きで、レートだけを見ているとスピード違反ではないかとも思いますが、しかし円が本当に安すぎるのか高すぎるのか判断するのは難しいですね。円は対アメリカのドルに対してだけ、過度に円安となっているのでしょうか?
日本の貿易はアメリカだけではありません。ドルに対して円とは別にレートが変動している欧州のユーロや韓国ウォン、中国元などとの貿易取引も多くなっており、アメリカだけを取り上げて為替の円高、円安を見るのではなく、貿易の大きくなってきている複数の国の為替レートも組み入れて考えなくてはなりません。2国間の為替レートだけではわからない、グローバルな輸出競争力を計るために、様々な国との為替レートを「貿易取引のウエイト」で総合した為替の指数が実効為替レートです。
今回「実質」実効為替レートが話題となりましたが、「名目」実効為替レートも存在します。
通貨価値は物価に大きく影響します。日本が脱デフレを掲げて行っている政策は、通貨誘導は国際的に非難されるため公言できないにしても、はっきり言えば円安政策ですね。ターゲットのインフレ率2%達成がなかなか難しいことが黒田日銀総裁の頭を痛めていることかと思いますが、インフレの度合いは各国様々。相手国とのインフレ度の違いが、名目の為替レートでは測れない通貨の実力の違いを生むことになります。例えば、仮に1ドルが100円だったと仮定、これが不変であったとしても、日本ではインフレが進まず、米国ではインフレによってドルの価値が半分になれば、日本円では半分の米国商品しか買えないこととなります。インフレ率が変われば為替レートは変わらなくても円の通貨価値はドルに対して実質半分になったと考えるべきでしょう。実際、日本は長期的に米国やユーロ圏の通貨に比してインフレ度合いが低い推移であるため、通貨価値は見かけよりも円安が進んでいたということになります。
ドルだけでなく、ユーロやウォン、元など様々な通貨に対してこのようなインフレの度合いを加味して調整を行った後の実効為替レートを「実質」実効為替レートと呼び、調整前の値を「名目」実効為替レートと呼びます。
日本銀行は、日本からの輸出額の1%以上を占める15か国・地域の通貨を対象に実効為替レートを算出しており、ユーロ、アメリカ・ドル、中国人民元のほか、韓国ウォン、台湾ドル、香港ドル、タイ・バーツ、英ポンド、オーストラリア・ドルなどを対象としています。アメリカでは連邦準備制度理事会(FRB)が毎日、アメリカ・ドルの名目実効為替レートを公表。円、ユーロ、カナダ・ドルなど6か国・地域を対象とした主要通貨レートと、26か国・地域に広げたブロードとよばれる実効為替レートが存在しています。
その値は指数で表され、指数が上昇するほど通貨の価値が高くなり、指数が下がれば下がるほど価値が低くなったことを表します。指数が下がれば円安になっているということで輸出競争力が高いということを表しています。
市場では、黒田日銀総裁の発言がなければドル/円相場は短期間に130円台に乗せた可能性があり、「管理不能」の印象を与えたかもしれないとして、この発言は決して失言ではなく過度な円安ドル高となるリスクを封じ込めたのではないか、という見方もあります。外為市場関係者の中には125円が「黒田ライン」となって意識されるとみる向きが出てきました。確かに実質実効為替レートからは、行き過ぎているドル/円相場。今週はアメリカのFOMCが17日水曜日に、日銀の金融政策決定会合が19日金曜日に控えており、両中銀総裁による発言が為替相場を大きく動かすと思われます。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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