第118回 「食べ残しは悪」との考えは浸透するか?【北京駐在員事務所から】

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第118回 「食べ残しは悪」との考えは浸透するか?【北京駐在員事務所から】

中国の人々にとって、たくさんの料理が食卓を埋め尽くす様は、幸福の象徴です。
旧正月の年越し、日本の大晦日に相当する「除夕」の晩は、親族が一堂に会し、食事を楽しむのが伝統です。最近は旅行に出掛ける人も増えていると言われていますが、多くの中国人にとって、故郷でのにぎやかな年越しは一年で最も楽しみな時間となっています。

普段の外食でも、中国人は多くの料理を注文し、テーブル一杯に並べるのが大好きです。
中国では「割り勘」が一般的でなく、例えば年長者が、あるいは友人同士であれば交代で「奢る」ことが普通ですので、奢る側は面子もあり、頑張ってたくさん注文するという訳です。
また、若い頃に食糧難を経験している年配者の間には、「満腹が最高の幸せ」という考えが根強くあり、例えば自宅に来客を招く際などでも、食べきれないほどの料理を振る舞い、また客の側も、「お腹一杯でもう食べられない」と意思表示することが礼儀とされています。

日本を訪れる中国人の間に、「日本料理は量が少ない」との不満を漏らす人が多いと言われていますが、日頃の健啖家ぶりを見ますと納得せざるを得ません。

たくさんの料理も、食べきることができれば全く問題ないところですが、しばしば食べ残しが発生し、壮大な無駄と指摘されています。
昨年、政府が発表した調査結果によると、中国全土で食べきれず廃棄される食糧は、金額換算で年間2,000億元(約4兆円)に上るそうです。人口一人当たり約3,000円で、中国の物価水準を考えれば1万円あるいはそれ以上に相当します。
その象徴が、政府機関や大企業が開催する旧正月前の忘年会「年会」です。高級ホテルの宴会場や有名レストランで、高級酒と豪華な料理を並べ、その多くが残されたままとなる様子は、新聞などでも頻繁に報じられ、特に政府機関や国営企業などの宴会には税金の無駄遣いとの批判の声も強く聞かれていました。

習近平政権の発足後、汚職撲滅運動とともに政府機関や国営企業での豪華な宴会が禁止され、ホテルやレストランが経営難に苦しんでいるとも言われています。以前が異常であったと考えざるを得ないところです。
政府の節約令に呼応するかのように、一般市民の間でも、レストランで食べ残しをせず、注文した料理を完食しようという「光盤運動」が広がりつつあります。
「光盤」とは、料理を食べきった後の皿が「きれいさっぱり」となる様子を意味します。
レストランでも、掲示物などで顧客に光盤を勧め、活動を後押ししています。
一般のレストランでは、食べきれない料理を持ち帰る「打包」が広く行われるようになりましたが、経営者や店員が頭を抱えているのが、ブッフェ(食べ放題)方式のレストランです。
日本のホテルの朝食などでも、中国人観光客が大量の料理を皿に盛った挙句、食べきれずに残すと問題視されているそうですが、量が多いことイコール良いことという考え方は容易には変えられないようです。
西部甘粛省の蘭州市にあるブッフェレストランは、料金75元(約1,500円)に加え、50元(約1,000円)の保証金を徴収し、食べ残しの多い客からはこれを没収しているそうです。
先月、4名の客に没収を告げたところ、納得しない客が警察を呼ぶ事態になったとのことで、レストランも大変です。
責任者は、客の半数程度が相当量の料理を残してしまうと嘆いており、店内の注意書きも効果を挙げていないと述べています。光盤運動は北京ではかなり広がっているように思えるのですが、地方都市や農村部ではまだまだなのかもしれません。

年配者が、大量の料理を目にして幸せを感じるというのも、心情的には理解できます。
将来、食事に不自由をするという経験を持たず、また諸外国の風習やマナーにも通じた人々が増えることで、「食べ残し」の問題も徐々に解消していくのでしょう。
レストランのテーブルからも、中国の歴史、世代間の価値観の相違、さらには諸外国との違いなども見てとれるように思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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