第54回 「ROE」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第54回 「ROE」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。記録尽くめとなった5月に続き、6月も日経平均は一時さらに高値を更新し、18年ぶりにITバブル越えを達成しました。6月前半は流石に相場の休み期間となりましたが、後半になると再度騰勢を強める結果となっています。相場の腰は強く、さらなる一段高を視野に入れる市場関係者のコメントも増えてきました。その中で、株価回復の主たる要因として、アベノミクスによる経済活性化策に加え、日本版スチュワードシップコードの導入などに代表される「ROE重視」の流れの本格化を指摘する声が主流となっています。中には、「ROE元年」とまで表現する関係者もおられます。筆者もそのことに大きく期待している一人です。

さて、今回はその「ROE」をテーマに採り上げたいと思います。そもそも、ROEは何故それほどに重要なのでしょうか。また、それほど重要なのであれば、何故これまであまり注目されてこなかったのでしょうか。本コラムではこれらに焦点を当ててみます。

まず、小難しいことはさておき、よく聞くそのROEとは何なのでしょうか。一般的な説明となると、ROEとは株主資本利益率を指し、当期純利益を株主資本で除した数字となります。利益率を示す指標ですので、この数字は高い方が望ましいこととなります。重要なのは、この算出式の意味するところ、です。誤解を恐れずに言うと、これは出資のリターンなのです(以降、厳密でない表現もありますが、簡単な表現を優先しますことをご了承ください)。例えば、読者諸兄の御友人が起業されるとしましょう。そして、出資を頼んできたとします。しかし、出資は貸付とは異なってお金が戻ってくる保証はないため、きっとこう尋ねるのではないでしょうか。「そのビジネスはしっかり儲けて、利益で還元できるの?」と。配当として払うかどうかは別にして、企業の計上する利益は株主のものです。出資分に見合った利益をしっかり計上してくれるのであれば、仮に株式を譲渡するとしても、企業が解散となっても、相応のリターン込みで出資分を取り戻すことができるはずだからです。

もちろん、赤字でさえなければ出資分の権利は保全されますが、それだと資金が寝ていることになってしまいます。純投資的視点からは他で有効な運用をした方がよかったということになってしまいます。これは資金運用という視点では大きな機会ロスとなります。友情は何にも換え難いですが、合理性を伴わない経済行為は友情にも悪影響を与えるかもしれません。まして、ビジネスは事業環境次第で突然悪化するリスクも着いて廻るものであり、出資金が雲散霧消してしまうケースも少なくありません。出資する以上は、それらのリスクを織り込んだうえで、それでも相応のリターン(利益計上)が期待できるのかどうか、をご友人に確認するのではないでしょうか。これを数字で示したものがROEなのです。

現実には、上場企業の株式を市場で取得する場合に上記のような思考をされる方はまずいません。上場企業は社会的信用も一般に低くはなく、出資リスクを目の当たりにするケースは稀でした。ROEが日本でなかなか浸透しなかった要因の一つはこれだと筆者は考えています。しかし、今や多くの企業が資本市場で厳しく評価される時代となりました。そこでそもそも会社に出資する(株主になる)ということの原点に立ち返れば、実はROEという考え方が最もシンプルかつ本質的であることがわかっていただけるかと思います。敢えて極論を言えば、株主からすれば、いくら借金していようが、無借金であろうが、売上高がどうであろうか、はあまり重要ではなく、出資に見合ったリターン(ROE)が期待できるかどうか、に突き詰められるということです。

2000年以降これまで、日本の上場企業の平均ROEは5~8%という水準でした。これは、出資者がその程度のリターンを得ていたということに他なりません。さて、出資者からすれば、(今はもう電子化されていますが)株券が最悪紙切れになるリスクを考えた場合、1桁台のリターンというのは果たして満足できる水準と言えたのでしょうか。ちなみに、この間、不動産の還元利回りも概ね同程度でした。不動産の方が「紙切れ」になるリスクが小さいことを考えれば、株式投資に本質的な魅力があったとはなかなか言い難い状況にあったと思われます。そう考えれば、ROEの改善に企業が注力した結果、多くの上場企業が目標に掲げる2桁のROEが現実のものとなれば、株式市場の魅力度は大きく変化するのではないでしょうか。ROEに期待する背景にはこういった考えがあるのです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎

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