第165回 NZドルは何故安い?!トレードの注意点 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

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第165回 NZドルは何故安い?!トレードの注意点 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ギリシャリスクでユーロが乱高下、ドル/円相場も125円が天井だったか?というようなムードになってきましたが、先行きが読めない問題をはらむ「イベントリスク」の高いカレンシーには手を出さないというのも生き残りの術です。ユーロやドル/円のトレンドがどちら向きなのかを把握するのが難しい局面ですが、勝てるトレードのポイントは、トレンドのある通貨を狙うこと。先週はポンドを取り上げましたが、今回はNZドルです。

2015年6月、サプライズで利下げを実施し急落したことで注目が高まっていますが、昨年2014年は3月から7月まで計4回も利上げを実施し、欧州危機以降で先進国初の利上げを背景に最強通貨として「買い」で注目されていたはずですが、たった1年で今度は利下げです。いったい何が起こっているのでしょうか。

クライストチャーチ地震を受け、ニュージーランド準備銀行(以下RBNZ)は2011年3月に50bpの緊急利下げを実施、以降政策金利を2.5%に据え置いたことが、ニュージーランドの住宅市況を押し上げました。震災の復興需要に加えて住宅バブルが引き起こされたためにRBNZは2014年、利上げによる引き締め策に出ます。この時、4回も断続的に利上げが実施されたため、NZドル人気は高まり、スワップ(金利差)を狙った長期投資の対象としても注目されました。しかし、実はインフレーションしていたのは住宅だけ、一般物価は上昇しておらず、ニュージーランドの国際収支は赤字が大きいのが現実でした。

利上げで住宅バブルの沈静化を狙ったRBNZですが、計算外であったと思われるのが「原油価格の下落」と「乳製品価格の下落」です。原油価格の下落が世界のインフレを抑制してしまっていることはよく知られるところですが、ニュージーランドの場合、主要輸出品目である乳製品価格の下落も打撃となりました。NZの乳製品輸出産業の割合は全体の25%にも及ぶという試算もある中、世界乳製品取引価格指数は長期にわたって下落基調を辿っています。2013年中国が一人っ子政策緩和を決めたことで中国からのミルクなどの消費需要に応えようと、世界が一斉に乳製品の供給を増やしたことで需給バランスが崩れたとされていますが、その中国の景気が減速していることも打撃となっているようです。背景にはロシアが経済制裁に対抗してEU(欧州連合)からの農産物輸入禁止措置を講じたことも重なって、乳製品価格は2009年以来の水準まで下落しており、経済成長への下押し圧力となっています。乳製品価格の下落はNZの主要産業である乳製品輸出での収入減に繋がります。

実際NZの1-3月の国内総生産(GDP)は前期比0.2%増と2年ぶりの低い伸びとなりました。乳製品価格の低迷が経済成長の下押し圧力となり、インフレ率 が4年連続で中銀目標の2%を下回る状況となっているのです。

景気のテコ入れをするため、RBNZは6月11日、政策金利を3.50%から3.25%に引き下げることを発表しました。RBNZは中期的なインフレ目標達成の実現性を危惧していることが改めて確認されたのと同時に、ウィーラー総裁が政策決定後記者団に対して、「乳製品収入の急速な減少は、経済成長への逆風になる」との見解を示し、0.25%の利下げは、乳製品価格の下落が一因であることを示唆しました。加えて、「追加の利下げを織り込んでいる」「NZドルがさらに下げる必要がある」とも語っています。NZドルの実効レートは昨年以来約6%の下落となっていますが、乳製品国際価格は50%を超える下落となったのに追い付いていない状況です。NZドルは利下げを実施したことに加えて、中央銀行が今後も利下げをするというスタンスを明らかにしているために、さらに下落していくものと考えられます。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場は次回7月23日の会合での0.25%の追加利下げをほぼ確実視していますが、RBNZの利下げは次の1回で終わらず、さらに1回行われるとの見方も浮上しています。明日7月1日水曜日には、月に2回開催される乳製品電子オークションが実施されますが、ここで乳製品価格の一段の下落が確認された場合、複数回の利下げ観測が強まり、NZドルはさらに売り込まれるリスクが高まるでしょう。

テクニカル面も長期下落を示唆、2011年と14年の高値で「ダブルトップ」を形成しています。月足チャートでは一目均衡表の雲の下限近くまで下げていますが、雲下に下落すれば「三役逆転」強い売りシグナルとなります。
ただし、気を付けなくてはいけないのが、ヘッジファンドなどの投機家による通貨先物ポジション。国際通貨市場(IMM)の先物取引非商業部門のNZドルの対米ドルでの売り越し高は23日時点で、前週の 6.4 億ドルから 9.3 億ドルに拡大し、2003年11月25日の統計開始以来の高水準となっており、これが何かのショックで買い戻された場合は、踏み上げ急騰相場となるリスクもはらんでいます。政策面からは下落トレンドが継続するとみられるNZドルですが、投機家が同じようにポジションを片寄らせてショートしてしまっている、という点には注意が必要。何かのきっかけで急伸する局面があれば売り参戦したいところですが、くれぐれも安値の突っ込み売りはしないように慎重に売り場を待つのが肝要でしょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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