マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国最南端の海南省は、南シナ海に浮かぶ海南島と周辺の島嶼から成り、亜熱帯性気候の下、木々が生い茂る美しい景観を誇っています。
以前は農業が主な産業でしたが、中国政府が国際観光都市化を打ち出して以来、有名ホテルの進出が相次ぎ、国内有数のビーチリゾートとして多くの観光客を集めています。
ところが、政府の後押しが乱開発を呼び、海南島の東部、南シナ海に面するエリアでは海岸線の90%が開発済となっています。ホテルや観光施設が海岸沿いに林立することで潮の流れが変化し、今後浸食による砂浜の消失が進むと危惧されています。
既に一部では砂浜が消失し、岩が露出しているとのことで、ホテルなど関係者は戦々恐々だそうです。
開発に加え、生活排水、工業排水や農薬などによる海洋汚染も深刻な問題です。海南島のビーチでも、最近では「きれいな水」が売り物にできなくなりつつあり、砂浜の浸食とあわせ、将来に向け不安の声が広がっているそうです。
また、中国本土最南端の広東省や広西チワン族自治区の沿岸地域では漁業が主要な産業なのですが、近年水質の悪化が進み漁獲量が減少し、また漁場がより沖合に移ったことで燃料費が嵩み、採算が悪化しています。
赤潮も頻繁に発生しているそうで、汚染の進行を裏付けています。
中国政府も、海岸での植林、サンゴ礁の保護や汚水排出事案の摘発など対策を講じているのですが、「自身の生活が精一杯で環境保護に目を向ける余裕はない」とする人々も多く、まずは生活水準の引上げと教育啓蒙が必要となります。状況の改善には長い時間と地道な努力が求められます。
5月から8月の夏場は、南部沿岸部では休漁の時期となります。
広西チワン族自治区の漁師は、将来について思い悩んでおり、漁を続けるためにはより沖合での操業が必要になるとしながらも、乱獲による資源の枯渇が怖いと述べています。漁獲量等の管理強化と、資源管理の技術の導入により、何とか持続可能な形で漁業を続けたいと希望しています。
さらに中長期的に深刻な問題として懸念されるのが、地球温暖化による海面の上昇です。広東省や香港には毎年多くの台風が襲来し、経済活動や人々の生活に影響をもたらしており、海面上昇が高潮の被害を増幅しています。
低地での浸水は常態化しており、広東省の惠州市では、海岸近くに整備された公園が度重なる浸水により利用できなくなりました。広東省全体では、昨年2014年に高潮等により60億元(約1,200億円)の被害が生じ、これは中国の省、市の中で最大の損失額になったそうです。対策には温室効果ガスの排出削減や植林など、世界全体での一致団結が求められるところですが、先進国と発展途上国の間で利害の対立が解消できずにいます。
島国日本にとっても、温暖化と海面上昇の問題は他人事ではありません。何とか妥協点を見出し、良い方向に進んで欲しいものです。
日本の25倍の広大な国土を有する中国ですが、山岳地帯や砂漠など利用に適さない土地も多く、また現在利用されている土地も、水不足や土壌汚染などにより、かなりの部分が今後放棄をせざるを得ないと見られています。
農業生産については、当面技術の向上による収量増が見込まれ、さほど心配は無いと言われていますが、海洋汚染の問題とあわせ、環境保護の水準を高めていかないと、将来食糧の確保が難しくなり、国際取引に与える影響も懸念されます。中国が人口と経済力に物を言わせるようになれば、他国はひとたまりもありません。ちょっと心配になるところです。
北京の旅行代理店の店頭には、「海南島の白い砂浜と青い海」といった宣伝文句が踊っているのですが、実態はお寒い状況です。
中国の光と影が垣間見える話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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