第55回 「夏休み」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第55回 「夏休み」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先月末、ギリシャ問題は一気に世界の金融市場を席巻し、日本でも大幅な調整局面を迎えました。このコラムの掲載される時間には、EUの求める財政緊縮案に対する国民投票の結果が出ているはずです。仮のNOが民意となると、ユーロ離脱に繋がりかねず、その影響は金融経済にとどまらず、安全保障面にも波及する可能性があります。上海株も調整色を増してきており、日本株の堅調さとは裏腹に俄かに波乱の色彩が増してきている印象が拭えません。そろそろ夏休みシーズンを迎えますが、ここしばらくは市場をマメにウォッチしておく必要を感じています。

さて、今回はその「夏休み」をテーマに採り上げたいと思います。当面は市場から目を離すのは少し怖いのですが、それでも夏休みは子供だけでなく、社会人も待ち遠しいものですよね。株式市場でも、酷暑銘柄やレジャー関連などが夏休みと絡めて注目されることも少なくありません。また、米国では夏は株価が(サマーラリーとして)上昇するといった経験則があることも良く知られています。一方、夏休みはバカンスシーズンであり、多くの外国人投資家は長期の休みに入っているために市場の活力も低下する、といった指摘がなされることもあります。この場合は夏枯れとも表現されています。ただし、サマーラリーと夏枯れなど、真反対の表現が尤もらしく並存していることを考えれば、つまりは特別な株価傾向があるわけではないということなのでしょう。それでもこういったネーミングがあるということは、やはり夏という季節がその印象を深めているためかもしれません。

そのため、夏休みをテーマとした銘柄選択となると、(待ち遠しいせいか 笑)自分自身がどこかに出かけることを基準に考える方が多いような気もします。しかし、それではあまりに直球過ぎるうえ、株式投資における銘柄選択にもあまり広がりがありません。そこで発想を変えて、人がどこかに出かける場合を考えてみたいと思います。この視点からは、春先に話題となった「インバウンド消費」が浮かび上がってくるのではないでしょうか。夏のバカンスシーズンに、多くの外国人旅行者が日本を訪れるというシナリオです。円安水準は続いており、旅行先の感じる割安感は「旅行者の爆買い」とまで言われた春先と変わっていません。日本人は日本の夏は湿気が大変であり、春のようにはいかないのでは、と思ってしまいがちですが、旅行者からすればそれも非日常となるはず。日本というソフトコンテンツに魅力があれば、気候によるハンデはそれほど大きなものにはならないのでは、と想像します。実際、どうしても行きたいと思うところであれば、筆者も気候は二の次という判断をするでしょう。春先に一世を風靡したインバウンド消費ですが、その再来を予想して投資を考えるのも一手ではないか、と考えます。

もっとも、こちら側の条件はあまり変わっていなくとも、旅行者側の条件が変わってしまっているリスクはあります。例えば、急騰していた上海株は直近で急ブレーキとなっており、中国からの旅行者はその影響を受ける可能性があります。ギリシャショックの影響が旅行者の消費動向に影響を与えるケースも否めません。そう考えれば、夏休みからインバウンド消費の再爆発、というのはやや短絡的で楽観的な発想であることは確かでしょう。しかし、視点を変えてみると、それなりの収穫も期待できます。まず、それでも爆発的なインバウンド消費が再現された場合は、訪日旅行が単なる一時的なブームでなく、より本腰の入ったものへと進化している可能性を考えることができます。インバウンド消費関連や力のあるソフトを提供できる企業の株価が再評価される余地も広がってくると予想します。一方、懸念通り不発に終わった場合は、インバウンド消費も追い風の影響が実は大きいものであった可能性が否めないとなり、今後はより慎重な見方を採る必要があるとの判断が働きます。「インバウンド消費」を漠然と捉えるだけでなく、この夏休みはその本質をチェックする好機と考えれば、またその見方も変わってくるのではないでしょうか。

なお蛇足ですが、筆者は夏休みにどこに行こうか現在悩み中です。いえ、そもそもこの相場展開で果たして夏休みは取れるのでしょうか(笑)?まずはこの波乱の展開をしっかり乗り切って行きたいところです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎

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