マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
豪ドルが上値重く、冴えない値動きが続いています。豪ドルは最近、対米ドルで6年ぶり安値をつけました。オーストラリアやニュージーランドの金利はリーマンショック以降引き下げられて随分低くなったとはいえ、日米欧のゼロ金利政策が長期化する中では金利があるだけ魅力なはず。マーケットが平穏であれば、金利が高いものへの投資が活発になり豪ドルやNZドルは人気化するのですが、昨今これら金利が魅力のはずのオセアニア通貨は下落トレンドを描いています。豪ドルの政策金利は2%、NZドルの金利は3.25%です。高金利通貨を「売り」でポジションを建てれば、この金利差分は「スワップポイント」として支払わなければならず、これがショートポジションを継続する「コスト」となります。ポジションを持つだけでコストがかかるため、本来は高金利通貨の売りは長期化しないものですが、一体何が起こっているのでしょうか。
7月7日オーストラリア準備銀行(RBA)は、予想通り政策金利を2%に据え置くことを決定しました。RBAは2015年今年に入って2月と5月の2回政策金利の引き下げを発表しており、年初2.5%あった政策金利は現在2%にまで引き下げられています。この2%というのはオーストラリアにとって過去最低の金利ですが、RBAのティーブンス総裁は「特に主要コモディティ価格が大幅に下落している状況を踏まえると、豪ドルがさらに下落する可能性があるとともに、その必要性もあるとみられる」と指摘しており、それを望むならなぜ今回もう一段の利下げをしなかったのでしょうか。最低とは言え、2%ものバッファーがあり、引き下げることはできたはずです。
オーストラリアの主な輸出品である鉄鉱石価格はここ1年ほどのうちに約半分まで急落しました。中国の経済成長が鈍化しているにもかかわらず、オーストラリアの鉱山各社が生産を拡大し続けたことで供給過剰状態へ陥ってしまったのです。オーストラリア・ニュージーランド銀行の試算ではオーストラリアの鉱業やエネルギー、公的インフラへの投資は向こう3年にわたり60%以上縮小する見込みです。
資源輸出、資源関連産業への投資が柱だったオーストラリアですが、屋台骨である資源高という支えがなくなってしまったため、2014年第1四半期には3.4%あったGDPは2015年第1四半期には2.3%まで落ち込んできています。
失業率もリーマンショック直後のピークである5.8%(2009年6月)を上回っています。2011 年3月・4月には4.9%にまで低下してきたのですが、2015 年1月には6.4%にまで悪化。直近6月は6%ですが、6%台の高水準での推移が続いています。
悪化する経済の立て直しのためにRBAが利下げを実施し、オーストラリアは利下げサイクルに入っているのですが、ここにきてギリシャ支援問題や中国バブル崩壊懸念が拡大しており、リスク回避と世界経済悪化の思惑からコモディティ価格はさらに下落、先行きも中国購買力の低迷から価格が持ち直す見込みがありません。よって、RBAは7月、わざわざ利下げに踏み切らずとも豪ドルが買われる地合にはないだろう、として今回の利上げを見送っただけだと思われます。
IMM通貨先物ポジションで最新の7月7日までの豪ドルの大口投機玉を確認するとネットで22,197枚の売り越しとなっており、ファンド勢などは売り玉を膨らませています。売り越し幅は前週6月30日と比べ10,166枚の拡大です。ただし、この間、投機筋は買い玉も増やしており、中国リスクを見てファンド勢が豪ドルに注目していることがわかります。
まだまだ利下げ余地がある豪ドル。8月の利下げ観測も後退していませんが、豪ドルはあまりにも下落が大きかったために現在は下げ止まっていますが、積極的に物色される地合にはなく、上値重い推移が続くとみられます。ただし、中国株式市場が大きく上昇することがあれば、膨らんできた売りの買戻しが入る可能性も否定できません。昨今は中国株に相関が強まっていることから、短期トレード派は中国株動向を見ながらトレードするという戦略も面白いでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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