第169回 中国株再下落でユーロ上昇のなぜ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第169回 中国株再下落でユーロ上昇のなぜ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

中国株が再び不安定な値動きとなってきました。27日月曜日、上海総合指数 は前週末比8.5%安の3725.56で取引を終え、心理的節目4000を大きく割り込んでしまいました。先週24日金曜日、国際通貨基金(IMF)が中国に対して株価の急落を受けて講じた措置を解除するよう促したという一部報道がありましたが、経済成長が鈍化する中で政府の株価押し上げ策が存続可能なのか懐疑的なムードが広がってきています。一昔前はアメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく、などと言われていましたが、昨今では中国がくしゃみをすると世界経済へ影響する構造となっています。そして、その中国、くしゃみどころか実はかなり重症なのではないかというのがマーケットのテールリスクとなってきているのです。

※テールリスク=発生の確率は低く、まれにしか起こらないとされるも発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク

中国に異変が生じること=リスクオフ相場です。日本株や米株が売られる他、商品市場にもネガティブ要因。鉄鉱石や原油、金など様々な商品市況は爆買い中国の消費に支えられてきましたが中国からの買いがピタリと止まってしまいました。中国株下落と相関するように原油価格も急落しています。アメリカの商品先物取引所等で売買されている価格から算出される国際商品先物指数であるCRBインデックスは2009年3月に付けた200.34という安値があるのですが、27日安値は204.77。リーマン・ショック時につけたショック安に迫るところまで下落してきました。

では為替市場はどうでしょう。
商品市場(中国経済)と相関の強い豪ドルが弱いですね。豪ドルは対米ドル相場で、6年ぶり安値付近で推移しています。豪ドルが中国や商品市況に連れて下落している背景は7月14日のコラム「コモディティ、中国株式市場に相関強める豪ドル」

http://lounge.monex.co.jp/pro/special2/2015/07/14.html

で取り上げましたが、中国株下落で下げ足を速めています。中国株の再下落で豪ドルが売られるだろうことは予想が難しくはありませんでした。

不可解だったのが、27日中国株が下落する中で急騰したユーロです。ユーロドル相場やユーロ円相場は中国株が下げ足を早めた欧州時間から大きく上昇しています。なぜ中国発のリスクオフ相場でユーロが買われるのでしょうか?


①ドイツの7月IFO指数が予想を上回る好結果

FX関連のニュースで最も多かったのが、IFOの改善によるユーロ買いです。IFOはドイツ経済を占う代表的な経済指標、約7000社のドイツ企業を対象に経済の現況と今後6カ月の先行きに対してアンケート調査を実施したもので特に鉱工業生産との関連性が高く、注目度が高いものです。結果が108.0と予想の107.2を上回ったことが、ユーロ買いの材料であるという解説ですが、それであるならばドイツの株価が上昇してもいいはずです。IFOの数字が発表された後も、ドイツの代表的な株価指数は一貫して下落しています。よって、指標がよくて積極的なユーロ買いが起こったのではないと思います。


②リスクオフでユーロショートの巻き返し

IMM通貨先物ポジションで大口投機家らのポジションを確認してみると先月6月には16日の週にかけてユーロショートが減少していたのですが、以降1カ月あまりに渡って再びユーロショートが積みあがっていたことが確認できます。つまり、ギリシャデフォルトやEU離脱問題が払しょくされたことで、そもそものECBの金融政策に沿ったユーロキャリートレード=ユーロを借りて(売って)他の通貨を買う、という取引が増えてきていたということ。これが平常時のトレンドであるユーロ安であるならば、リスクが起きた時はユーロショートの買戻しが起こることで、ユーロ上昇が起こってしまいます。ドル円相場が平常時には日銀の金融政策に沿う形で円安になるのですが、リスクが起こると円高に行くのと同じです。6月半ばにかけてのユーロ上昇時はギリシャリスクでユーロの買戻しが起きました。今回は中国リスクです。リスクオフ相場では、ユーロが買い戻されやすいということを覚えておくといいと思います。


③月末要因

今週は7月最後の週です。IFOの数字が表すようにドイツなど輸出産業が柱となっている国の業績は、昨今のユーロ安により好調だと思われます。海外で利益を上げた欧州の輸出企業は月末などの締め日に向けて、利益を国内に戻すオペレーションをするだろうことが考えられます。これをレパトリエーションと呼びます。例えば米国においてドルで利益を上げたなら、ドルをユーロに替えて国内に戻すというわけ。27日ユーロ上昇が加速したのが、ちょうど欧州時間が始まる時間帯であったことを考えると、こうした月末要因によるユーロ高が起こったというのも背景にあったのかもしれません。

相場の世界は教科書通りには動きません。金融政策に沿って動く時もありますし、マーケットの売り買いのポジションの偏り(需給)で動くこともあります。また月末や月初など企業の決算に絡む取引が相場を動かすこともあり、それらが複雑に絡み合って動いています。そうした癖を覚えていくこともトレードにおいてはとても重要です。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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